【原神】北風騎士、天蛇から飛び立つ
「こんな凄まじい所があったなんてな……」
眼前に広がる遺跡群に、くすんだ金髪の偉丈夫──西風騎士団大団長〝北風騎士〟ファルカは、太い腕を組みつつ唸った。
炎の国ナタの禁域であるオシカ・ナタ。その遥か上空──白い雲海を見下ろし、視界を遮るものなく蒼穹を見渡せるポイントに、その遺跡は浮遊島として存在していた。秘源と称される龍文明の機構を用いた、古代王朝の名残りである。
「たしか〝天蛇の舟〟だったか? こんな場所まで冒険してきたとは、栄誉騎士には恐れ入るな」
「ふふん。こいつとオイラが解き明かしてきた遺跡はまだまだたくさんあるぜ。聞いたらファルカもきっと腰を抜かすぞ」
ファルカの賞賛の視線の先で、ガイドのパイモンが得意げに腰に手を当てる。その隣では栄誉騎士こと旅人が、微笑ましげにパイモンを見ながら、同じように腰に手を当てていた。
「ははっ、そいつは楽しみだな。で、そろそろ本題を教えてくれ。俺をわざわざここに連れ出したのは、この絶景を楽しませてくれるためだけじゃないだろう?」
ファルカがニッと笑みを浮かべる。頼もしい笑みだ。どんな困難や強敵が現れても、この男なら必ず解決してくれる。そう確信させてくれる笑みだった。
だから旅人も迷いなく、ファルカに来てもらった理由を切り出した。
「ファルカさんに、ここから飛び降りてもらおうと思って」
「はぁっ⁉︎」
ファルカとパイモンの驚愕の叫びが重なった。
どうやらパイモンも初耳だったらしい。
「足場の端の、この辺りからジャンプしてもらいたいんだ。ここから跳べば、ちょうど陸地に着地できるはずだから」
「おい! なんてこと言い出すんだよ旅人! こんな高い所から飛び降りるなんて、そんなことしたら死んじゃうだろ!」
二人の驚きが見えてないかのように説明を続ける旅人に、パイモンが噛みついた。しかしツッコミを入れてから、何か気づいたように指を鳴らす。
「ああ、オイラわかったぜ。飛び降りた後に風の翼を広げるんだな。でも問題は〝いつ〟広げるか、なんだ。どれだけ墜落するギリギリに風の翼を広げるか……。これはファルカの度胸を試す、エクストリームチキンレースなんだ!」
「全然違うよ」
「全然違うのかよ!」
「ファルカさんは元素スキルを長押しで前方に特殊ジャンプができるんだ。このジャンプはどんな高所から落ちても落下ダメージを受けないんだよ」
「おい旅人、これ二次創作小説なんだからメタな用語は控えろよな」
「ちなみに着地の寸前に落下攻撃をしても落下ダメージはゼロにできるけど、今回は使わないでほしいな」
「だから控えろって!」
「というわけでファルカさん。お願いします!」
「……なぁ、栄誉騎士。俺の能力を高く買ってくれるのはありがたいが……」
ファルカは草地に大剣を突き立てて、草地の縁から眼下を覗き見ていた。旅人とパイモンが会話している間も眼下の雲海を眺めていた眼差しが、今、少しだけ揺れた。
「俺はこの遺跡の探索に力を貸してほしいとか、そういう展開を期待してたんだよなぁ。べつに飛び降りるのが恐いわけじゃないんだぞ? だが、その、なんだ……ドラゴンスパイン辺りで手を打てなかったのか?」
「あそこは寒いから」
「そりゃ寒いが……」
「それに行ける範囲だと、天蛇の舟が一番高い場所だから。ファルカさんのチャレンジにぴったりかなって」
「そうか……いやいやいや!」
頷きかけた頭をぶんぶんと横に振って、ファルカは逞しい腕を組んだ。
「騎士として、俺の力は人々を守るためにある。このチャレンジは興味深いが、こんな所で使うわけにはいかないさ。期待に添えずすまないな」
「そっか……無理を言ってごめんなさい」
ファルカの隣に立って、旅人がうなだれた。
「着地地点には報酬の蒲公英酒を用意しておいたんだけど」
「なにっ!」
雲海を見下ろすファルカの片目がワインボトルに変わった。
「ナタの蜜酒も用意したんだけどなぁ」
「蜜酒まであるのかっ!」
もう片方の目が酒樽に変わる。
うなだれていた旅人がそのとき突然、悲鳴をあげた。
「ああっ! ファルカさんのために用意したお酒がヒルチャールに囲まれてる!」
「なんだと! 許せん!」
ファルカの膝がグッとたわんだ。腰元の神の目が瞬き、翠色の風元素が彼を中心に渦巻く。次の瞬間、草地を押し込むように蹴立てたファルカの姿は空中にあった。跳び上がりざまに豪快な宙返りまで決めた北風騎士の手には二振りの両手剣が、片手に一本ずつ携えられている。
「北風騎士、出撃する!」
「『俺の力は人々を守るために』ってのはどうしたんだよ!」
パイモンのツッコミに返事はなかった。
ファルカは左右の手の両手剣を一対の牙がごとく構えたまま、太い雄叫びをあげて落下していく。その姿は薄雲を突き破り、すぐに見えなくなった。雄叫びも遠くなっていく。
「天から落ちる狼の牙……まさしく〝天狼〟だね」
「そうか……? というかお前、ここからヒルチャールがお酒を囲ってるなんて見えるのか?」
「見えるわけないでしょ」
悪戯っぽく目を細めて、旅人は自分の風の翼を確かめた。
「お酒を用意してるのは本当だから、きっとファルカさんは許してくれるよ。それより、さあ俺たちも降りよう」
「お、おう……なんかファルカがかわいそうになってきたぞ」
地上に降下した旅人とパイモンを、酒樽の隣に座り込んだファルカが出迎えた。掲げた酒杯にはもう何杯目かも知れない蒲公英酒が満ちていた。
「遅かったな。いやぁ、雲を突き抜けてオシカ・ナタを一望するのはスリリングだったぞ。そして冒険の後の酒は美味い!」
「お前が満足そうならもういいぞ……」
北風騎士ファルカ(CV杉田智和)
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