推しのVtuberがクリスマス直前に体調不良になって傷心中の俺を、幼馴染がしつこく誘ってくるんだが
「鬱だ……」
「どしたん?」
「あのさ、心して聞いてくれよ。言うぞ? 推しが、体調不良になったんだ……」
「……ほーん、それで?」
「おまえーっおまえ……。推しがなーっ! 体調崩したんだぞ!?」
「いや声でけーよ」
葵の指摘にはっとする。冷静さが売りの俺としたことがほんの少し取り乱してしまったようだ。一応周囲を見渡すがこちらを気にしている人はいない。これが教室だったら完全に終わっていた。
今現在、俺は幼少期からの腐れ縁である幼なじみの葵と、学校の中庭で昼飯を食べていた。
隅の方でかつ外だから、多少声を張ったところで気にするやつはいなかったようだ。
「はあぁぁぁぁ。心配すぎる」
「体調不良って都合良すぎね?」
「は?」
「てか時間なくなるからさっさと食えよ」
「お、おう」
促されるまま弁当の中身を詰め込む。会話に夢中になりすぎて時間を全然見ていなかったから、危ないところだった。
予鈴が鳴ったタイミングで葵と連れ立って教室に戻る。次の授業の準備をして、一段落ついたことで葵の言葉がリフレインする。
――都合良すぎね? 都合良すぎね? 都合良すぎね?
葵の言葉はハイコンテクストすぎて理解できなかった。付き合いが長いせいで互いに言葉を省略しがちなところがある。
だから、時々何言ってんだこいつ現象が発生する。
いやそれはいい。この言葉の背景は? 体調不良が都合いいってどういうことなんだ。むしろ心配するところだろう。現に俺は朝、ツブヤイターで体調不良のお知らせを見てから今の今までずーーーーっと心配し続けている。別に俺が特別なわけではない。茜っ子ならみんな同じ心持ちだろう。
さて、体調不良が都合の良いときとは一体何を指し示すのか。現代文の時間をフルで使い切った結果、身の毛もよだつ恐ろしい推察が脳裏をよぎる。
馬鹿な……ありえない。邪悪すぎる発想に俺は一人打ち震えていた。
「なあ、昼に言ってたアレってそういう意味か?」
「ん? ああ。クリスマスだしな。イロイロ忙しいんだろうよ」
平然とした顔で葵は言い放った。こいつ、顔が良ければどんな残酷なことを口に出してもいいと勘違いしてるんじゃないのか?
「で、でもさ、本当に体調が悪いのかもしれないじゃん」
俺の声は情けなく震えていた。
「お前の好きな箱見たらさ、直近で同時に5人も体調不良になってるよな」
「ぐ、偶然! 寒いし……!」
指摘されるまでなく、俺はその事実を把握していた。だが理解することを理性が拒否したのだ。
考えたら脳が破壊されるぞ、と。
「……それよりさ、クリスマスなんだけど――」
「クリスマスという単語をこれ以上発するな……。死人が出るぞ……」
死者は主に俺……。そんなこんなでいつの間にか、6限目に。
もうじき冬休みだというのに、まったく心弾まない。はあ、マジつらたん。
仕方無しに帰り支度をゾンビのような速度で進めていると、葵が机の近くに突っ立っていることに気づく。何してんだこいつ。いつもなら部活に行っている時間だと言うのに。ちなみに俺は帰宅部だ。なぜなら部活をすると推す時間が減るから。
「今日は休みだから」
黙って不審そうにじっと見つめる俺に、葵は簡潔に答えをくれた。なるほど。珍しいこともあるもんだ。
「じゃ、一緒に帰ろーぜ」
「……おう」
2人できりで通学路を歩くのはなんとなく新鮮さがある。葵は友達も多く後輩先輩問わず人気のタイプなので、たとえ部活がなくても引く手あまたの存在だ。
葵の口数が少ないのが妙に気になった。
「どうかしたか?」
「ん、あー、や。なんでもない」
なんでもないわけないだろその反応。もしかしてツッコミ待ちか?
ただ、葵の表情からして冗談を言う空気ではないことを察した。なんだ、何を言おうとしてるんだ?
「そんなにじっと顔見るんじゃねー」
グイッと顔を押されて強制的に前を向かされる。しかし、改めて曲がりなりにも美少女と評されるだけあるなと感心した。長いまつげに伏せた瞳は黙ってれば完璧な美少女に擬態できてる。
喋ると俺より乱暴な口調なのでマイナス10000点。推しのお淑やかを見習ってほしいところだ。
「……ッ。お前さ、クリスマス暇だろ、空けとけよ」
しつこく顔面を見続ける作戦を続けたところ、効果が出た。葵の口から放たれたのはクリスマスという忌まわしい言葉。
「その日、親が両方仕事で忙しいらしくていないんだよ」
「まあ、空いてるけど」
というわけでなし崩し的に俺のクリスマスの予定は決まったのである。
傍から見たら外見は美少女の同級生と過ごすことを、羨ましく思うかもしれないがそんなことはない。
俺と葵は家も近所で、家族間の仲も非常に良好的なので友達というより家族みたいなもんだ。
「ふふっ、ならよかった」
その上品な笑い方は耳なじみがあるものだった。花開くような優しく誰をも魅了する清楚な声。俺は一瞬、葵に推しがブレて見えてしまった。
「んだよ」
目をゴシゴシ擦ってみるとやはりそこにいるのはガサツで口の悪い幼なじみの葵だった。
き、気のせいだよな! うん!
主人公くん気付いてえええ!と思ったら
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