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「この空に」(In this Sky):響生×塁生

#記念日にショートショートをNo.51『いまを生む:終編』(Generate a Moment:End Part)

作者: しおね ゆこ

2020/12/31(木)大晦日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n3147ie/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n3f84683f2ce8)

【関連作品】

「この空に」シリーズ

 あれから約2週間、メジャーリーグとの契約をドタキャンした塁生を非難する声で日本中が湧いている。突然の変更で住む家のない塁生と同居することになり、マスコミの批判を塁生がなるべく目にしないように、日中のほとんどの時間消しているテレビの電源を、塁生がお風呂に入っている間に入れる。

民法のテキストを眺めながら、BGMのようにテレビを流す。

♪ピロリン、と心臓に不快感を与える音が響き、顔を上げる。

アナウンサーが、横から渡された資料を見ながら、緊張感を頬に張り付けてニュースを伝えていた。

「速報です。先程、アメリカ・ニューヨーク発、東京行きの便が、燃料トラブルにより着陸に失敗し、東京湾に墜落しました。」

弾かれるように立ち上がり、テレビを見つめる。どこまでも青い海の上に、見るも無惨な姿になった飛行機がその胴体を横たえていた。

「…現在、安否の確認を進めているとのことです。」

ガチャリ、とリビングのドアを開けて、塁生が部屋に入って来た。

「響生、あがった……」

立ち尽くす私の視線を辿った塁生の口から、呆然と言葉が漏れる。

「嘘だろ……」

アナウンサーがしばらく繰り返し速報を伝え、間もなく、各地の記録的な暑さを伝えるテロップが画面の下部に表示された。

「…響生。」

金縛りから解放されたかのように、塁生が突然私の名前を呼んだ。

「…どのくらいの人が、この事故で亡くなったんだ。」

その声の低さに、生温い閉塞感が芽生える。

一度見た記憶の糸を、辿る。

「確か…、64人くらい……。」

「…俺だけ」

塁生が呟く。その言葉を聞き取れず、聞き返す前に、塁生が振り返った。

「俺が死ぬことは分かっていて、他の人たちのことは助けられなかったのかよ!!」

肩を掴まれる。背中が椅子にぶつかり、ガタンと椅子がずれて音を出す。

「俺だけ、助かって……」

塁生の声に涙が混じる。肩に爪が食い込んでゆく。塁生が肩に顔をうずめ、自分の体重を離した。圧されるように床に腰を落とす。

「…ごめん……」

「響生のせいじゃないのに……」

くぐもった声が耳を刺す。海に落ちた飛行機の姿が蘇る。

「ごめん……」

「助けられなくて、塁生のことしか考えられなくて……」

目に涙が浮かぶ。必死に手を伸ばす。塁生の背中を抱きしめる。

何も救えない2人分の泣き声が、虚しく部屋に響いた。


 「今年も、終わっちゃうね。」

お墓の前で、2人並んで手を合わせる。あの事故の日から毎年、必ず当日と大晦日には、ここに来るようにしている。

 数日前、海辺のレストランで食事をした。サンタの着ぐるみが、泣いているふたつ結びの女の子にハート形の風船をあげていた。お父さんとお母さんが、サンタの着ぐるみにぺこぺこと頭を下げていた。海風に髪を靡かせて、砂浜を塁生と並んで歩いた。風が、時の流れを繋いでいた。

 今年も波の音と潮の匂いの中、63人の御霊の冥福を祈る。

祈ることで、何がどうなるというわけではない。亡くなった人が、助かるわけではない。

けれども生きている人に出来ることは皮肉なほど少なく、数えるほどしかないのだ。

私はいま、生きている。

生きているのだから、自分が出来ることをすることが最大の義務であり、最高の至福であるに違いないと、私は思う。

遠くで、ゴーン,ゴーンと、鐘が新年を告げる。

目を開け、塁生を見上げる。

「あけましておめでとう。」

「今年も、よろしくね。」

【登場人物】

○高瀬 響生(たかせ ひびき/Hibiki Takase)

●桐早 塁生(きりはや るい/Rui Kirihaya)

【バックグラウンドイメージ】

【補足】

◎他タイトル候補について

『カコヲウム』

【原案誕生時期】

公開時

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