難民キャンプでの攻防
『見えましたよ、難民キャンプです!!』
うれしそうなイオとは裏腹に難民キャンプは静寂に満ち満ちていた。300人ほどの人が白い顔をしながら空を眺めている。腕を欠損し、治療を受けている者、目が見えずにスープを飲むのに苦戦している者、医者だって疲弊している。
『こんばんわー!』
空気を読まずにイオが入っていった。
「おいバカ、空気読めよ!!」
俺はイオをチョップしようとした。その時
ドン!!
俺の足元に何かが転がってきた。
「え?は?????」
地面に転がっている物は赤黒い液体を出し風に当たっている。
『ふふっふふふ、あははははははは!!!!!!』
イオが笑いだす。ふしゅうとイオの周りから赤い湯気が出始めた。
『離れろ!!!そして目と鼻を覆うんだっ!!』
つい先ほどまで生気の抜けていた兵士たちが顔色を変えて一斉にイオを取り囲む。そして赤い湯気は難民キャンプを覆いつくした。
ばたばたと人間が倒れていく。
『嬢ちゃん!,まずいッ!これは、この蒸気はまさか、』
男からガスマスクをうけとった。
「なんなんですかッ!これはッ!」
俺は焦燥感におそわれた。どういうことだ。もしかして、この人たちは、
『血の霧だッ!これは人間の顔の粘膜から体内に侵入し、内側から体を破壊するッ!しかしこの霧はガスマスクをつければ10分はもつはずだっ!!全員ッ!10分以内にけりをつけるぞ!!!』
案の定人間だ。もしや、難民キャンプに向かったのってこれが目的だったのか!?いや、さっきとは明らかに様子がおかしい。暴走しているのか!?
武器を持った人が続々と集まってきた。
『いいか⁉覚悟をきめろッ!!うぅてぇぇえッッ!!!!!』
軍人たちが一斉に発砲し、イオの体に何発も撃ち込まれた。
『やったか!?』
イオは地面に倒れ込み動き出す様子がない。
「【ブリザード】ッッ!!!!」
イオが呪文を発した。
断末魔が響く。
「あはははははは。いいねぇいい音だ。」
ついさっきまでイオがいた場所に黒髪で大柄の青年が立っている。
『この魔法はッ!!氷と風の最上級複合魔法だッ!!!!』
よかった。さっきの軍人の人は生きていた。
「大丈夫ですか!?」
軍人に近寄る。
『お嬢ちゃんは早く逃げな。』
いいんだよ俺のことは。
「動けるか?」
体のあちこちにしもが付いている。
『大丈夫だ。まだ戦えるッ!!だから嬢ちゃんは逃げろッ!!』
くそ、なんなんだよこのゲームは。頭がおかしくなりそうだ。どうするどうするどうするどうする。
『早く逃げろッ!!!!、嬢ちゃんッ!!!!!!!』
ああもう
「うるせえええええええええ!!!」
「あるじゃねえかよ助かる手段なんてよぉッ!!!!」
「イオを倒して俺もあんたも一緒に生き残るッ!いいなッ!?」
俺はナイフを構えた。
「【ブリンク】、【ブリンク】【ブリンク】【ブリンク】【ブリンク】【ブリンク】【ブリンク】、おうらあああああああああ!!!!」
俺はイオに切りかかった。
『お前は同郷のよしみで生かしてやろうと思っていたんだがな。』
ぐしゃっという音と共に俺の視界は一度闇に包まれた。
俺らしくないな。これはゲームだ。ナイファーは不快感を与えるためなら何回負けても味方を見捨ててでも一度のキル、一度の勝利のためにすべてをかけるんだッ!それが俺自身にかけた『縛り』であり、『覚悟』なんだッ!!
さあ、リベンジしよう。ぶっ殺してやる。
〈新たなジョブを獲得しました。〉
脳内にアナウンスが流れた。
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「そろそろ食事にしたいんだがなぁ。お前、ただの軍人ではないのだろう。死ぬ前に名乗ることを許そう。」
イオは圧倒的なオーラを放っている。くそ、勝てる気がしない。圧倒的だッ。
『俺はルイ。元人類軍特殊部隊第一分隊長。ルイ・アークファングだ。』
いつから狂ってしまったのだろう。
一緒にベータテストを受けたかつての仲間もほとんど死んでしまった。ああ、ゲームに閉じ込められて2年。ここで死んでしまったらどうなるのだろうか。まだ死にたくない。現実世界に未練があるわけではないけど、漠然と死の恐怖が目の前にそびえたっている。ああくそ、死にたくない。
ルイはおもむろに胸に腕をめり込ませた。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!!』
胸から緑色の日本刀が現れ、狼のような緑色の毛皮や爪が耳やしっぽが生える。
ああ痛ぇ。ああ死にたくない。だから、この一撃にすべてをかける。
「はははははッ!!おまえ、圧倒的な実力差からか、ついに狂ったかッ!!!!さあ、お前の命、お前の『魂』のすべてをかけてかかってこい。」
イオが高笑いし、ルイは居合の構えをとる。
「【狼牙】があああああああああッッッ!!!!!!!」
『【サンダーボルト】おおおおおおおおッッッ!!!!」
お互いの技が交差し、ルイは倒れた。
「お前のその技。お前の『命』を感じたぞッ!!久々に楽しい戦いだった。」
倒れたルイに向かってイオが歩みだした。
「では、さらばだ。」
イオは火球を出し、ルイに向ける。しかし、その少しの時間を見逃さないものがいた。
『【クラウドバースト】おおおおお!!!』
あの下等吸血鬼、心臓を貫いていたはずだが、まだ生きていたのか!?
「不意打ちをするのならッ、に声を出さないほうがいいぞおおおおッ!!!【エクスプロージョン】!!!!」
下等吸血鬼は爆風に飲まれた。
「今度こそ確実に殺したッ。これでやっと食事にありつけ。。。何ッ何いいぃぃぃぃぃ!!!」
爆風の中から獣が飛び込んでくる。
コイツ速いッ!!防御魔法、いや、間に合わない、このままでは。負けるッ!!!
「このカスがああああああッッ!!!」
首に硬化の魔法をかける。
『【ブリンク】ッ!!!』
刃はまだ硬化のかかり切っていない後ろから走り、視点が縦に180度回転した。
「お前はまさか、吸血鬼か。。。。」
この声はまで届かなかった。
この次の話で序章終了します。