ある決意
妻は54だが 56の俺より老けて見える
妻とは見合い結婚だった 入り婿になって楽をしてやろうという魂胆が
楽するどころか 尻に敷かれこの年までこき使われた
「100万も何に使ったのよ あたしに黙って・・」
「釣り船を買いたいと思ってさ 仲間と積み立てをしているんだ すまなかった ついつい足らなくて手を付けてしまったんだ
「あなたには集金は任せられないわ 泥棒猫みたいに使い込むんだから・・」
「おいなんだ 泥棒とはなんだ! おまえだってブランドのバッグやら 似合いもしない高い服を買っているじゃないか!」
「悪かったわね 私のお金ですよ 何を買おうと・・勝手よ 」
いつもこの調子で憎まれ口でやり合い 夫婦の常套句でもあったが・・今日は妻の言葉がヤケに突き刺さる
人は40過ぎたら顔に責任持てと言うが 責任ありすぎの顔だ
妻は特に金のことになると カネ 金 金と 守銭奴婆ぁの形相になる。
天使のような真奈美とは比ぶべきもないが・・
この顔が立夫にしたら嫌でたまらなかった
この女と結婚したことを何度悔やんだことか・・
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数日後 彼女と駅前の喫茶店で待ち合わせた
ここから彼女が勤めているドーナツ屋が正面に見える・・
彼女とバスで 出会ってから長いようで あっという間に過ぎた感じだ ・・
真奈美とは楽しい逢瀬の日々だった
そのつど なにがしかの お金を渡していた 会うために渡している自分はどういう存在なのかと思った
無心された事は一度もない 真奈美はモノほしそうな態度も見せず渡したお金は
素直に受け取ってくれた
【真奈美さん これは僕の気持ちなんだ】
この言葉を何度繰り返しただろうと思った
しかし今日はこれまでと違う・・
銀行からおろしてきたお金が100万だ
この100万を渡した時 彼女のその反応がどんなものなのか
今までの流れから言うと きっと受け取るだろう・・
専門学校に入るための学資金として渡すつもりなのだが・・
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真奈美は 変わらぬ笑顔で僕の前に現れた
真新しいコートを着ていた 僕が前に渡したお金で買ったのだろう・・
「おじさん 待った?」
いつもの可愛い丸顔が僕に微笑む・・
他愛もない会話の後 僕は切り出した
心に期したある決意があった