彼女の家族
僕は地域で老舗の新聞配達店を営んでいた
配達員を10人程置いて顧客は安定し その他に貸家も持っているところから収入はそこそこに 余裕はあった
ただ、貸し家も妻の名義だし新聞配達の店も妻の親の代からのもので言うなれば僕は入り婿・・
小遣い程度は自由になるものの預金や通帳はがっちりと妻が握っていた
妻と僕の間には子供がいない
妻とは仲が悪くもないが良くもない・・無機質な仮面夫婦と言ったところだった
恋愛で結ばれたということでもないし・・僕も内気で暗い目なので 女性に声をかけたこともなく 恋愛などは無縁の青春を送り
新聞店に入り婿で来てからというものは 唯一の趣味はと言うと 釣りという魚が相手・・
これも50過ぎてからアホらしくなり、ほとんど釣り糸を垂れなくなった
そんな中で 魚ではなくて 人間の女性と知り合ったと言うワケだ・・
しかも可愛い若い女性となると 魚なんて一瞬で興味なくなった・・
真奈美の住んでいるアパートに新聞配達している従業員に訊いた
「アパートの2階に大橋っていう表札は知ってるかい?」
「ええ知ってますよ 確か母子の暮らしで うちの新聞も他のも取ってないですよ
その母親が呑んだくれで廊下に寝てしまって娘さんが難儀してましたよ それだけじゃないです その朝帰りしてきた母親と娘が大喧嘩してました・・
娘さん可愛い子ですね・・チラッとみましたけど 苦労してるんでしょうね・・妹もいましたよ
まだ小学校位かな・・・・その子がそんなケンカしている時に傍で泣いてましたよ」
「そうか・・」
およその事聞いただけで 真奈美と言う女性が 荒れた母親と幼い妹を抱えて困っていると言う想像はついた・・
(助けてやりたい・・なんとかしてやりたい)
彼女とは あれから5カ月 食事だけではない テーマパークに誘ったり 映画や 寄席にも・・
クリスマスのプレゼントに服を買ってやった 楽しい夢中の日々が過ぎていく
新しい年になると彼女の成人式だ・・振袖をレンタルではなく買ってやった
彼女は大喜びで僕とのツーショット撮影にも応じて 仲の良い父娘のようになっていた・・
一体どれほどのお金を彼女につぎ込んだのか・・立夫の貯金通帳の残高が見る間に減っていくが
そんなものは眼中になかった・・この先どうなるかという考えもしなかった
そして季節はめぐって春が来た
彼女は専門学校に入りたいらしいが そんなお金などあるわけがない・・
なんとかしてやりたい・・学校に行かせてやりたい・・立夫の胸の中は彼女の存在しかない
そんな 熱病に浮かれまくる 立夫の様子に 妻が気が付かないはずがない・・
妻は帳簿を見て唖然とした 新聞の集金を使い込んでいるのだ・・改めて調べたら数カ月前から
相当額の使途不明金が増えていた・・
「あんた こんなお金 何に使ったのよ! 」