最終話
マリさんの体の傷痕に引いていたクラスメイト達だったが、時間がそれを解決してくれた。慣れてしまえばそれが日常だ。マリさんの方からも話しかけるようになったためクラスメイトとも打ち解けるようになっていった。
学園で唯一の男性である僕は、相変わらず女生徒から距離を置かれている。
そんな中でクラスの女子と話しているマリさんの爆弾発言があった。
「私、幾太君と結婚の約束をしているの」
休み時間の教室に驚きの声が響き渡る。
「ねーねー、入江君、本当なの?」
「ねーねー、いつから?」
「ねーねー、結婚式はいつ?」
それまで話しかけられたことのない自分が女子に取り囲まれ質問攻めにされた。
恐怖の対象であった男性が一転無害な存在と認識されたのだろうか。
北極探検の氷砕船のように周りの氷を砕いて距離を縮めた。
この一件以来、僕もクラスの中に打ち解けるようになった。
それまで喋る相手はマリさんだけだったのが、他の子とも話すようになった。
僕がマリさん以外の女子と話をしているときは、マリさんは自分の席で本を読んでいることが多い。
他の誰でもない、マリさんがやりたかったこと。
読みかけだったマリさんの小説が、またページをめくられるようになった。
マリさんが読む物語の先に、僕はどんな風に描かれているのだろうか。
それを考えると僕の心臓は鼓動を早める。
(了)