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ハーレムフランケン  作者: 楠樹 暖
第六章 後藤茉莉編
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6-2 胸のドキドキがなくなった

「手術は成功したよ」

 目を覚ますと保健室のベッドに横になっていた。

 起き上がると体が軽い。今まで四六時中倦怠感があったのが嘘のようだ。

 倒れる前の動悸もなくなり、心臓はゆっくりと脈打っている。

「手術……?」

「自分の胸を見てみろ」

 シャツをめくると胸に縫い目がある。

「心臓を入れ替えておいたぞ。

 君は、『特発性拡張型心筋症』という心臓の病気だったんだ。かなりヤバイ状況だったからね。治すよりも移植した方が手っ取り早いと思ってな。

 感謝しろよ、元の心臓の持ち主に。普通の移植手術だと待っててもなかなか手に入らないからな。

 女性の心臓で、ちょっと小さかったかもしれないけど、前よりいいはずだ」

「女性の心臓って……誰の……ですか?」

「後藤茉莉君のだ。彼女の頭部は無事だったが、肺や腸は破けていてね。でも、心臓は無傷だったんで何かに使えるかなと思って取っておいたんだ」

「マリさんの……心臓……」

「前に、君は言っていたよな。左腕を返してやれと。今の君の心臓は後藤君の心臓だけど、返してやるかい?」

「…………」

「まぁそう重く受け止めなくてもいいよ。言ってみただけだから」

 中野先生の隣にはマリさんの姿が見える。

「私の心臓は杉村先輩のがあるし、前にも私の心臓あげるって言ってるし」

 マリさん自体の心臓は杉村有希(ゆき)先輩の胴体なので、杉村先輩の心臓だ。

「ありがとう、マリさん」

 そういえば、気を失ってからどれだけ時間が経ったのだろう?

「すみません、あれからどれくらい時間が経ってます?」

「だいたい三十分くらいかな」

「えー、それだけしか経っていないんですか? 心臓の移植も行っているのに」

「まぁ、長年研究してきた技術だからな。後藤君のときだって、その日のうちに歩けるようになったしな」

 恐るべし、旧陸軍の技術……。

「まぁ、これで君も私の実験対象になったわけだ。だから定期的に経過報告にくること。

 私の技術だったら、その心臓はあと百年くらい問題なく動き続けると思うけどな」

 勝手に手術されたのはビックリだけど、きっとあのままだったら早かれ遅かれ死んでいたのだろう。中野先生には感謝しないといけない。

 ベッドから降りて立とうとすると目の前が真っ白になった。

「あ、危ない!」

 マリさんが僕を支えようと手を伸ばす。しかし支えきれずにマリさんを巻き込んでベッドへと倒れ込んだ。

 マリさんは僕を抱え込むように倒れたため僕の下敷きになった。マリさんの胸元へ顔を埋める僕。

「わ、ゴ、ゴメン」

「私のほうは平気。幾太君、大丈夫?」

「ちょっと立ちくらんだみたい。もう大丈夫」

「ちょっと血が足りなかったか。まぁ若いんだし、すぐ回復するだろ」

 マリさんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 それを見た僕の胸はドキドキしていた。これは今までの動悸とは違う気がした。

 施設の出入り口までは戻らずに、保健室から寮へと戻った。


 次の月曜日の放課後、保健室へと足を運ぶ。

「調子はいいですよ。体が軽くなったみたいで」

「まぁそうだろな。術後も順調のようだし」

「先生と、心臓を提供してくれたマリさんのおかげです」

「そういえば、このあいだ倒れる前に、後藤君のことを『エリちゃん』って言っていたよな? 後藤君の名前は『マリ』だから言い間違いだよな?」

「あ、あれはですね。あの時は一年生の宮田絵里の人格が出ていたんですよ」

「宮田絵里君の人格? どういうことだ?」

「えっ? 六人分の脳みそをかき集めて一人分にしたから六人分の記憶と人格があるって……」

「誰がそんなことを言っていた? 後藤君か?」

「はい……そうですが……」

「私は首の縫い付けはしたが、頭は割れてなかったぞ」

「で、でも、頭の縫い目は?」

「あれは単なる傷を縫っただけだ。脳みそがバラバラになっていたら、さすがの私でも治すのは無理だ」

「じゃ、じゃあ……」

「解離性同一障害……いわゆる多重人格ってやつか。まぁ無理もないか。あんな事故があっては。他人の体を付けたことで心のバランスが崩れたんだな。体に合わせるために体用の人格を作ったというところか」

 そんな、マリさんの中の他の五人の人格は作りもの!?

「まぁ、人は多かれ少なかれ色々な人格を持っているものだからな。場面に応じて仮面を付け替えるようなものさ。

 生活に支障があるようなら問題だが、今のところは様子見でいいんじゃないかな」

「ちょっと引っかかることがあるんです」

 マリさんは多重人格なのだろうか? たぶん違う気がする。

 自分の考えを確認するために、僕は急いで寮へと向かった。


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