Cake
暫く沈黙があった。厳密にはさほど長くはなかったのかもしれないが、自分のワードセンスの貧困さを呪いながら返事を待つこの時間は耐え難かった。ついに待ちきれずに次の言葉を放つ。
「邪魔しちゃったのはごめんだけどさ、他の選択肢もあるんじゃないかな~って」
「嫌だ。」
僕の言葉を遮り彼女はそう呟いた。
まじか。いや確かに急に知らないやつからお茶誘われたら拒否するだろうけどさ、今拒否しますかこのタイミングで!
「あのさ、何があったのか知らないし、辛いだろうから深入りするつもりはないけど、ここで会ったのも何かの」
「ケーキもないとやだっ!」
・・・は?え?そういう嫌だなの?っていうか本当についさっきしのうとしてた方ですか・・・
「け、ケーキがある店ならいいの?」
彼女は小さく頷いた。
まあ、ともかく目の前の危機は一応過ぎ去ったと見て良さそうだ。
「とりあえずさ、靴履こうか。」
並べてあった靴を取り、彼女に渡した。受け取った彼女の手首には傷があった。ここに来るまでも色々試したのだろうか。何が彼女をそこまで追い詰めたのか。
僕たちは喫茶店がありそうな駅の方向に歩きだした。何を話したらいいんだろう。下手なこと話すと彼女を刺激してしまうし、かといってなにも話さない訳にもいかないし。
彼女が身に纏っていたのは制服のようだった。高校生なのかな。
ついには一言も発しないまま駅まで来てしまった。
そもそも寂れすぎててスタバはおろかマックすら無さそうだ。
「まじか~何もないじゃん!」
振り向くと相変わらずの真顔でこっちを見ている。でもなんか怒ってる?睨まれているようにも見えてきた。
「えっと、駅の反対側行ってみる?」
「・・・ケーキ、ないとやだ」
なんなんだこのケーキへの異様な執着は!
調べるしかないか。
「へ~いsiri、近くのスタバを教えて~」
「ドトールがいい」
「え、そここだわるの?」
思わず口に出しちゃった。ほんとに死のうとしてたんですかあなたは。
何やってるんだろう、わからなくなってきた。
結局彼女の頑なな意思に振り回されてドトールのある駅まで行くことになった。
そういえばまだ彼女の名前すら知らないし。
そもそもとっさに止めた訳だけど、この先どうしたらいいんだろう。
僕は不安と混乱とを抱えながらドトールを目指した。
深い闇を抱えた名前も知らない彼女と共に。