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13、自他共に認める嫌なヤツ

 この野郎共、と悪態を吐きたい気持ちが半分。

 面倒くさくなってきた、とどうでもいいから寝ていたいが大体半分か。

 人間とは元気なもので腹が満たされれば大体の怒りは静まり、多少は冷静になってくる。相手がやたら口煩いのが玉に瑕だけど、よく考えれば妖精郷にいた頃に比べたら大体平気だ。毎日朝から晩までひっきりなりに話しかけられて寝不足状態だったから、それに比べたらマシ、といった程度だけれども。


「お喋り程度だし、日がな他人様に虫や小石を落として囀る悪戯共よりはいくらかましかぁ」

「隊長、私たち、なんだか失礼なことをいわれてる気がします」

「実際その通りじゃねえの。俺だってお前らとずっと一緒にいるの嫌だし」

「失礼だー失礼だー! 人を束ねる立場の自覚があるのかこの屑野郎-!!」

「そうだそうだ、だから彼女にも愛想尽かされて逃げられるんだ」

「全然関係ねえし、お前ら普段もその調子だからどの研究室からもたらい回しされるんだろ。前の室長にうるせえってぶち切れられて飛ばされただろうがよ」

「ブーーッ! 全然ちがいまぁす、あれは借りてった竜のタマゴを紛失したから、もらってくるのに苦労したのにってぶち切られたのー!」

「そうだー全然違うぞー! 物事の把握は正確にしとけー!!」

「それちょいと後で詳しく話そうや。それもらいにいくのにうちの連中がどれだけ傷を負ったと思ってる」


 飯屋を出て、彼ら先導のもと移動する間もずっとこうだ。とにかく二人組がうるさいからアサカは口数が減ったし、その分だけ黙々と考え事に集中している。


「なあ、人通りも減ってきたし、オレのこと気付いてるなら出てもいいか?」

「どうぞどうぞ、妖精さんを私たちは歓迎します」


 声だけだったパックが姿を現すと、二人組は目をキラキラ輝かせる。

 そんな二人を、パックはアサカの頭の上に座り見下ろしていた。


「さっきから不思議だったんだけど、お前ら鳥の人だよな」

「ですです。私たちそっくりだからいっつも誤解されちゃうんですけど、双子でもなんでもなくまったく違う血統ですよ」

「血統が違うのはわかるよ。もってる精霊力の感じが全然違うもんな」


 これには目一杯見開く二人。だけど、とパックは別の疑問があるらしい。


「鳥の人は雌雄が別れるもんじゃなかったか。なのにお前達ってどっちつかずの雛なのに、年はいってる感じあるじゃん。どっちなんだ?」

「あら」

「すごい、この妖精さんったら私たちのこと見抜いちゃった」

「見抜くも何も丸わかりじゃねーか」

「そうでもないですよ。現にうちの精霊様は気付けなかったですもの」

「ヒトに紛れてる精霊だったらそんだけヒト馴染んで鈍くなったんじゃね。普通に妖精郷に暮らしてる連中が見たら一発だろ」


 パックの言葉を受け、改めて二人を見てみればたしかに容姿は似通っている。白と薄青を混ぜた髪は長くも短くもなく、体躯は細めだが青年期一歩手前で中性的。服装も男女どちらか見分けが付かず、極めつけはお互いが対になるように眼帯で片目を覆っている。


「おねぇさんたちがどこから来たかはまだわかりませんが、妖精さんが知らなかったって事は、少なくともそちらには私たちとおなじ種族の鳥の人はいないんでしょうね」

「あん?」

「私たち、伴侶が決まったら性別が決まる感じなのでぇ。貴石の国でも雌雄同体の種族は珍しいんですよ」

「へー」

「反応がうっっっすい!」

「え、いや、そういうもんなんだなーと……」

「もっと驚いてください、これでもすごいことなんですから!! 私たち、絶滅危惧種なの!」

「絶滅危惧種はもう見てるからなぁ」

「ほぁ」

「へ」

「ここに……ぶべっ」


 余計な口を叩く前にアサカによってはたき落とされた。少しはアサカへの思いやりが実ったと思っていたが、時々至らなくなるのは相変わらずだ。

 面倒くさくなる前にパックを袋に放り込み、リゲルに尋ねた。


「ここどこに向かってんの?」

「この間の変態野郎の家」

「もう帰りたくなってきた」

「安心しろ、これからもっと帰りたくなる。俺はすでに帰りたい」

「ついでに忠告すると、あそこでご飯を出されても食べない方がいいと思う~」

「嬉しくない忠告をどうもありがとう」


 貴石の国はどこまで歩いても自然と人が共存している。その指針は人気の少ない高級住宅街に向かうと顕著に表れており、ところどころに植栽が施されており、中には明らかに人工物と思しき巨大な花が咲いていた。見た目は白百合に似ているが、二人組曰くトレントの花」といって夜は外灯兼警邏代わりになるらしい。不審者が近寄ると赤く点滅するとかなんとか。


「……どんな時代でも赤が警戒色なのは変わらないのねえ」


 そんな話を聞いて妙な関心を抱いたのだった。

 案内されたのは柵に囲まれた立派な館だ。ご丁寧に門に衛兵が待機しており、他のどの家々よりも警戒は厳重である。


「この国ってどの国よりも平和だって聞いたけど、それでこれ?」

「恨まれてるからな」


 他の家には兵なんていない。どうしてここまで恨まれているのか、かつ何故そんな人物に感心を持たれたのか。悪事は働けど他人様に恨まれる行為はしたことがない、と小悪党らしい倫理を胸に玄関をくぐり抜ける。

 すでに待機済みの執事が恭しく礼をとり、彼女は中へ通された。

 待っていたのは庭の中にぽつんとある白いテーブルと椅子、そこに優雅に腰掛ける貴人だ。

 彼はアサカが席に着くまで一瞥もくれず、手に持つ紙から目を離さなかった。司祭めいた若干ゆるめの衣装が厳格さを醸し出しているが、アサカにとっては胡散臭さを強調しているようにしか感じられない。詐欺師、と呟いたとき、二人組が小さく吹き出したのは聞き逃さなかった。

 茶器が用意され、茶が注がれ、しばらく待ってもそのままだった。

 アサカには目もくれない。リゲルも声をかけないし、二人組も不動で待機している。どうやら相当傲慢な人物なのだと目利きを立てたところで、男は持っていた紙を破り捨てた。


「論外」


 ぽいっと投げ捨てたゴミはそのうち使用人が拾うのだろうか。

 心証マイナス五十、と勝手に評価を始めたアサカを前に、男は堂々とのたもうた。


「それで?」

「は? それで、とは」

「無論名前だ。互いに円滑な交流を図るためにはまず名乗り合うことが大切になる。ゆえに私は君の名前を尋ね、君はそれに答える義務が生じた」

「とても名乗ってってお言葉には聞こえなかったのだけど、あと名乗れっていうなら普通そっちから名前を出すもんじゃないの」

「そうだろうか。見たところ君は旅人、私は貴石の国の重鎮だ。私は貴石の国における身分をなによりも大事に置くからね。わかりやすく教えてあげると差別的価値観に溢れているということになる。なので君から名乗ってもらいたいといっているのだが、どうかね?」

「アサカ、なあ、ヒトに疎いオレでもわかったぞ。こいつヤなヤツだろ。なぁそうだろ。ばばあに引き合わせたら即怒らせて粉々にされる人種だろ」

「パックは黙って。…………アサカ。ただのアサカ。名乗る苗字や通り名はないよ」


 面倒で嫌なヤツだが、権力があるのは間違いない。

 両手を挙手し「降参」の形を作っていた。


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