神威大和VS日本芸能界の闇(5)
事務所に入って来た車は、護送車そのもの。
秘書は首を傾げるけれど、三木はご機嫌そのもので、乗り込む。
ただ、車内は豪華だった。
三木
「さすが親分だなあ、外の見てくれは渋いが、内装は最高だ」
「フカフカの赤じゅうたん、お・・・酒も食い物もある」
「音楽は、まあ、俺の歌かな」
その三木の言葉通り、自分の往年のヒット曲がBGMとして流れ始める。
さて、事務所を出たお迎えの車は、首都高に入った。
三木は、さんざん飲み食いして、高いびきで眠ってしまったけれど、秘書は言いようのない不安を感じている。
「どうも、話の展開がいい加減だ」
「三木先生も、熱海の親分の言葉だからって、二つ返事」
「しかし、ギャラも決まっていないしなあ、実は」
「女ねえ・・・親分が用意する・・・それは聞いたことない」
「それにしても、何で護送車?内装は立派になっているけれど」
秘書のスマホに、熱海の興行会社から、メールが入った。
内容は、直接、ホテルの宴会場に向かって欲しいとのこと。
また、すでに前座の若い歌手はリハーサル終了したことと、八村由紀は、親分の部屋にいること等。
秘書は、また違和感。
「あまりにも性急過ぎる」
「テレビ局が入る、地元のお偉いさんが来ると言うのに」
「いきなり、ぶっつけ本番?」
「いくら先生でも・・・」
秘書は、かつての三木の失態を思い出した。
酒場で、オペラ歌手と口論になって、歌比べをした。
「同じ曲」を声量、声の質、音楽性を、三木とオペラ歌手と交互に歌い、居合わせた客に優劣をつけさせた。
結果は、三木の酷い負けだった。
声量、声の質、音楽性全ての項目で、居合わせた客が、オペラ歌手に高い点数をつけた。
しかし、三木は「負け」を認めなかった。
「たまたま、発声練習が足りなかった」が理由。
しかし、その条件はオペラ歌手も同じにもかかわらずだった。
「プライドだけは異常に高いからなあ・・・何があっても負けを認めない」
「しかし、いくら歌謡界の帝王と言っても・・・ぶっつけ本番?」
「声パクしかないかな」
秘書は、返信メールで「昔のヒット曲の声パク」を申し込んだ。
即時に返信があった。
「それは親分が認めません、いろいろ即興でリクエストしたいとのこと」
秘書は、頭を抱えてしまった。




