国税庁VS相撲部屋(1)
神威大和が突然、親方の肩をポンと叩いた。
雷電と横綱の稽古のような相撲に夢中になっていた親方は、怪訝な顔。
「何です?このいい時に」
しかし、神威大和の顔は、さっきまでとは一変、実に厳しい。
「このいい時に言うのも無粋かな」
「でもね、親方のベルトから下げた鍵が、どうにも気になってね」
親方の顔色が変わった。
「ああ・・・これは飾りです・・・何でそんなことを聞くんですか?」
その親方に森田愛奈がさっと耳打ち、また何かを明かす。
神威大和は、「え?」とのけぞる親方を厳しく見据える。
「その親方が座っている下に何かあるのかい?」
親方の顔が赤くなり、そして青くなった。
「いや・・・そんなことは・・・知りません・・・」
「この相撲部屋ができた時から、何も変えていないので」
森田愛奈の耳打ちから、明らかに表情が変わっている。
「そんなことを言ってもね」
神威大和は、また表情を厳しくする。
「もう少ししたら来るよ、本当のお客さんが」
「まあ、飾りって言うんだから、使ってないとは思うけれどね」
「万が一、そのお客さんが、腰から下げた鍵に注目してさ」
「質問されたら、親方、どう答えるの?」
親方の身体が震えだした。
「あの・・・何をおっしゃられているのか・・・さっぱり・・・」
「雲をつかむような話で・・・」
相撲部屋の扉が、その時に開いた。
スーツを着た人が数人入って来た。
そして、その中の一人が「国税庁」の名刺を、親方に示している。




