雷電の道場破り(8)
土俵に入った横綱は、表情を厳しくして四股を踏みだした。
さすが横綱らしく、今までの若手力士よりは、かなり音も大きく迫力がある。
しかし、雷電は気に入らない様子。
「おい!横綱、本気で四股を踏め、それが大事だ」と、格下に指導するような口調。
「うるせえなあ・・・素人が・・・」
横綱は、雷電を睨みつけながら四股を踏む。
しかし、横綱に合わせて再び四股を踏む雷電とは、雲泥の差で全く迫力がない。
神威大和が雷電と横綱に声をかけた。
「十番勝負にするかい?」
横綱は「ムッ」とした顔になるけれど、雷電は不安そうな顔で「そんなにやったら横綱がつぶれるよ、いいのかい?」と神威大和を見ている。
すると横綱の顔に朱が入った。
「おい!このド素人!天下の大横綱と呼ばれた俺をなめるんじゃねえぞ!」
「どうなっても知らねえぞ!」
雷電は、ようやく横綱の本気の顔を見てニヤリ。
「おお、いい顔になった」
「これで少しは張り合いがあるってもんだ」
そのまま横綱に向かって、大音声で「さあ!来い!来て見ろ!」と言い放ち、仕切り線に両手をつき、がっちりとした構えを取る。
横綱も同じ構え、まるで本場所同様の厳しい表情になる。
いきなり勝負が始まった。
横綱必殺の「電光石火のカチアゲ」が雷電に伸びた。
それを見た瞬間、親方はニヤリ。
「あの田舎相撲も、あれで終わりだ」
しかし、神威大和がプッと笑う。
「終わりは横綱だろ?雷電の方が速い」
その神威大和の言葉の通り、雷電の右張り手が先に横綱の左頬を打つ。
そして、横綱は腰から土俵にドスン、転がってしまった。




