雷電の道場破り(5)
「おい!お前ら!こんな田舎相撲に恥かかされてどうする!」
「誰か手本を見せてやれ!」
真っ赤になった親方が、力士たちを怒鳴りつける。
しかし、横綱はそっぽを向いているし、他の力士も顔を見合わせて、つつき合うだけで足が前に出ない。
その様子を見た雷電は、呆れ顔。
「それでも力士か、情けない」
「四股も満足に踏めない力士が、どうして相撲が取れる」
「ただの肥満体の集まりか?」
「ただ飯を大食らいして、昼寝して、相撲の真似事か?」
「江戸の相撲も、落ちぶれたものだ」
その雷電の言葉に挑発されたのか、ようやく若い力士が土俵に入って来た。
そして顔を真っ赤にして、四股を踏む。
しかし、「ペチ・・・ペチ・・・」「ペタン・・・ペタン」と、全く迫力がない。
見かねた雷電が向かい合って、四股を踏む。
「ズッシーン!」「ズッシーン!」雷電の四股は、またしても相撲部屋全体を揺らすほどの迫力。
若い力士は、いたたまれなくなり、土俵から外に出てしまう。
神威大和が雷電の顔を見た。
「てっぽうはするかい?」
雷電は、少し考えた。
「ああ、したいところだけど、こんな貧相な柱だと、折ってしまいそうでな」
「面倒だ、こんな腑抜けだらけの部屋はやめよう、看板を外して帰る」
「がっかりした、相撲部屋になっとらん、張子の虎ならぬ張り子の相撲取りばかりで意味が無い」
どうにも困った親方は、助けを求めるかのように、横綱を見た。
「おい!横綱、何とかしろ、看板外されるのは恥だ」
横綱は面倒そうな顔。
「その恥って、何ですか?」
「金儲けになるんですか?よくわからない」
「持って帰られたら、また作ればいいのでは?」
「俺らの四股がどうのこうのって、素人に何を言われようと、知りませんよ」
「それでも、ここで腹を立てて、相撲して怪我させてもいんですか?」
その横綱には、雷電が応えた。
「おい!そこの腑抜け、言葉で相撲取ってどうする」
「相撲取りは互いに裸一貫、土俵で語るもんだ、情けない」
「ほんと、親方も親方なら、横綱も輪をかけて腑抜けだ、江戸の大相撲も地に落ちた」
その「腑抜け」が相当気に障ったらしい、横綱の顔も赤くなっている。




