モーツァルトVS現代日本音楽界の闇(13)
動揺する審査委員長を冷ややかに流し目、神威大和は聴衆を煽る。
「さあ!これから名誉ある審査員長の神聖な演奏が始まります!」
「皆様の大拍手と大喝采を浴びたこの若者を、最低と酷評した審査委員長の演奏です」
「心して、演奏を聴きましょう!」
そして神威大和に煽られ、聴衆が大拍手になるものだから、審査員長はガタガタと震えだす。
ただ、震えているとは言え、この状態ではピアノを弾くしかない。
審査委員長は目を閉じて、ピアノを弾き出した。
最初の出だしで指間違い、聴衆のあちこちで、失笑が起きる。
ますます焦る審査委員長は、リズムが崩れ、弾き間違いも増加。
すると聴衆から、あざ笑う声が出始める。
「おい!ちゃんと弾け!お偉い審査委員長!」
「あれだけ金をせしめて、そんな腕?」
「あーーー!また間違えた!最初からやり直ししたら?」
「審査委員長、ピアノも音楽も才能がないの?」
「威張ることと、金集めだけが偉いの?」
しかし、どれほど、あざ笑われても、審査委員長のピアノは酷さを極め、ついには完全に落胆、恥ずかしさのあまり、鍵盤に顔を突っ伏し泣き出してしまった。
そして、聴衆全体からの、恐ろしいほどのブーイングとともに、ロビーから警察官が入って来て、ステージにそのまま、のぼる。
その警察官は審査委員長に厳しい顔で言い放った。
「審査委員長、恐喝で刑事告発がありました」
「ロビーに流れている動画は官邸、警察庁にも届いています」
「このまま、署までご同行願います」
審査委員長は、すっかり肩を落とし、警察官に連行されていく。
その審査委員長を数多のマスコミが取り囲み、写真や動画撮り、厳しい質問を浴びせる。
ただ、審査委員長は、意気消沈、全く答えられない。
ザワザワとなる聴衆を見て、神威大和はモーツァルトに声をかけた。
「K331をお願い、口直しでなくて耳直し」
モーツァルトは笑顔、K331を弾き始めると、聴衆はまた別次元の世界、うっとりと聞き惚れている。




