モーツァルトVS現代日本音楽界の闇(12)
口角泡を飛ばして怒鳴り声を上げ続ける審査委員長に、森田愛奈が再び声をかけた。
「審査委員長、ロビーが大変なことになっています」
審査員長が「何?」と立ちあがり後ろを振り向こうとすると、神威大和から声がかかった。
「審査委員長、ロビーに行く必要はない」
「ロビーで流している録画と同じものを、このホールでも見ることができる」
審査委員長が首を傾げると、ホールステージの壁が大きなスクリーンと化し、「録画」が流れ始めた。
まず、楽屋や廊下が映し出される。
そして審査委員長が審査員楽屋に登場。
楽器店員らしき人から封筒と菓子折りをもらい、審査査員長が500万と笑う場面。
審査員楽屋に審査員たちが集まり、コンクール出場者の名前の隣に、鉛筆書きで献金額と順位を書いている場面。
「今年も同じように儲かるなあ」と笑う審査員たちの場面。
「これで楽器業界も音楽業界も安泰です」と、安心しきった楽器会社の経営者が笑う場面。
審査員長が「演奏がどうのこうのなんて、牛馬のような聴衆にわかるわけがないだろ」とうそぶく場面。
そんな動画が流れ続け、ホール内は大混乱。
「審査委員長!これは事実ですか!」
「我々をだまして、コンクール開始前に、実際の演奏前に、献金額で順位を決めていたのですか?」
「演奏の力で順位を決めるのが音楽コンクールでは?」
「我々が牛馬?馬鹿にするにも程がある!」
「誰が音楽界を支えて来たんですか!音楽ファンがあってのことでしょう!」
「それに、着ている服装で音楽を判断?」
「上品なスーツを着れば、誰でもいい演奏ができるのですか?」
そんな大混乱の中、神威大和は審査員長を手招き。
「さあ、そこの白髪頭の蝶ネクタイの審査委員長」
「さきほど、あなたが最低と罵倒した彼以上に、モーツァルトを弾くことができますか?」
「できますよね、罵倒した彼が最低なら、あなたは最低ではないのですから」
「きっと彼以上に崇高で神聖な音楽を弾けるのでしょう」
「何しろ、上品なスーツを着ていらっしゃる、お金持ちですねえ」
「さあ!さっそく模範演奏を聴かせてください」
「うっ」としり込みする審査員長だったけれど、その抵抗はできなかった。
神威大和が、目を輝かせると同時に、ピアノの前に「座らされている」のだから。




