モーツァルトVS現代日本音楽界の闇(7)
ユニコーンが運転する黒ベンツは全くスムーズに進む。
森田愛奈は、途中から首を傾げている。
「何故か、赤信号がない、渋滞もない」
しかし、そんな状態で上野の音楽ホールに到着してしまうし、神威とモーツァルトは黒ベンツを降りて、どんどん歩いて行ってしまう。
「へえ・・・国際ピアノコンクールねえ・・・今日は大学生の部本選と」
「本選開始は、30分後ですね」
森田愛奈は、音楽ホールの前に立てられた看板を見る。
神威大和はようやく森田愛奈の顔を見た。
「官邸と、警察、それから税務署、マスコミ・・・知り合いの記者クラブかな、それとなく」
森田愛奈は神威大和に質問。
「ここでも何かあるのですか?」
神威大和は頷く。
「今日は大学生の部らしいけれど」
「音楽コンクールに巣くう利権と傲慢で汚れた程度の低い連中」
「音楽を食い物にしているだけで、音楽を知らない連中」
森田愛奈がタブレットを操作していると、神威大和が目を一瞬輝かせる。
「森田さん、楽屋と廊下の監視カメラから、そのタブレットに取り込めるようにしたよ」
「そこで金品の授受が発生すると思う」
森田愛奈は、「うっ!」と驚いた。
神威大和の言う通り、森田愛奈が手に持つタブレットが8画面に分割。
楽屋や廊下が映し出されている。
神威大和がタブレットを覗き込む。
「ほら、見てごらん?これは審査員控室らしい、審査委員長のリボンがついていて」
「誰かから封筒と菓子折りをもらって、ニコニコしているでしょ?」
「封筒も厚いな、300万はあるね、500万くらい」
「審査委員長に金品を渡した人は・・・楽器屋さんかな」
「ネームプレートに楽器店の表示」
森田愛奈が、驚きやら怒りを覚えたりもしていると、神威大和の顔は苦々しいものに変わる。
「審査員が集まって来て・・・もう審査結果を確認している」
「コンクール出場者の名前の隣に、鉛筆書きで金額を書いて」
「金額の多い少ないで、順位を決めるのかな」
森田愛奈は、また腹が立った。
何しろ、コンクール本番の演奏前に「金額」で順位をつけているのだから。