モーツァルトVS現代日本音楽界の闇(5)
神威大和の指摘は続く。
「都のピアノコンクールの審査員にも接待やら賄賂か?」
「自分の生徒を優先しろとか?」
「調べれば、いろんな画像やら映像が出るに違ない」
「場所は銀座か?赤坂?」
「そんな接待で、コンクールの評価を変える審査員も審査員だが」
神威大和の強めの言葉に、北島ピアノ講師は震えあがる。
しかし、小さな声で「どこに証拠が・・・お前は脅迫か?恐喝か?」と、言い返す。
その言い返した直後だった。
北島ピアノ教室の窓が、一面のスクリーンと化した。
そして、いきなり映像が流れる。
北島ピアノ講師が、自宅の金庫から数百万の札束を出す様子、ピアノコンクール都大会の審査員控室で菓子折りを渡す様子、丁寧にも「500万です」との言葉も聞こえて来る。
その次の場面は銀座のクラブ。
楽器メーカー、北島ピアノ講師、都の教育委員会幹部、都議会幹部が並んでいる。
楽器メーカーの社員が高級ブランデーを全員に注ぐ。
「明日のコンクールは、いつものように願います」
都教育委員会が幹部は、グイッとブランデーを飲み、北島ピアノ講師の肩を叩く。
「ああ、いつもの通りにね、北島さんにはお世話になっているし」
都議会幹部が北島ピアノ講師にブランデーを注ぐ。
「もうすぐ選挙で、その際には」
北島ピアノ講師は、「ああ、それはもちろん」満面の笑みで、ブランデーを注ぎ返す。
そんな映像が流れるものだから、北島ピアノ講師は、ますます震えあがる。
神威大和は、モーツァルトの顔を見た。
「それでは、警察と都の職員が来る前に・・・ああ、マスコミも来るかな」
「大先生に若者の演奏でも聞いてもらいましょう」
モーツァルトは、クスッと笑い、ピアノの前に進む。
そして、いきなり弾き出したのは、ピアノソナタ。
軽やかで典雅な本物の音楽が流れ始め、森田愛奈、法務省の内村由紀もレッスンを受けていた少女もうっとり。
ワナワナ震えていた北島ピアノ講師も心を奪われたような陶然とした顔になるけれど、神威大和の表情も言葉も厳しい。
「さあ、お偉い北島先生、この若者以上に美しく典雅に弾けるんでしょうね」
「模範演奏をしてもらえませんか?できますよね」
「さっきまでは小馬鹿にした顔で、この若者を見ていたのですから」
「できないとしたら・・・恥ずかしいですよね」
神威の辛辣な言葉責めで、北島ピアノ講師は、その顔をおおって泣き出してしまった。




