モーツァルトVS現代日本音楽界の闇(2)
一行は、ピアノの音が聞こえて来た家の前に到着した。
森田愛奈が家の壁に下げられた看板を読む。
「北島ピアノ教室と書いてあります、上野にある音楽大学卒とか」
「日本でもトップクラスの権威ある音大です」
神威大和は、唇に指を当てて、森田愛奈を制する。
するとピアノの音に混じって、小さな女の子の泣き声が聞こえて来る。
モーツァルトが嫌そうな顔になると、今度は中年の男性の怒り声。
「この下手くそ!ピアノなんてやめてしまえ!」
「自己流過ぎる!俺の指導に従え!」
「それでも人間か!お前は!犬や猫だって、飼い主の言葉がわかるぞ!」
「顔が不細工なら、ピアノも頭も不細工だ!」
森田愛奈は我慢が出来なくなった。
「神威君、これ、パワハラ、モラハラ、人格攻撃です」
神威大和も頷く。
「事件として、取り扱う」
「こんな指導が恒常的に行われていれば、自殺者も発生しかねない」
「ここまで聴こえて来るのだから、近所の人も目にしているはず」
森田愛奈は、たまたま隣の家から出て来た中年の女性に声をかけた。
「総務省の官僚をしております森田と申します」
「偶然、この家の前を通りかかったら、ピアノの音に混じって泣き声が」
その中年の女性も心配そうな顔。
「ああ・・・はい・・・いつも、心配で」
「指導が厳し過ぎて、時々怪我人も出ていまして」
「それでも、どういうわけか、不問にされて」
「人権問題になるかと思うのですが」
その言葉を受けた森田愛奈の動きは速かった。
「法務省に人権問題を扱う知人がいます、すぐに来させます」
そんな話の中、中年ピアノ講師の怒鳴り声と文句は、ますます大きく酷くなっている。




