自由が丘駅前のいじめられ高校生事件(6)
神威大和が、その先生に声をかけた。
「先生は・・・奥田って名字だろ?」
「奥田」と言われた先生の肩がビクッと動き、剣道部員たちも驚いたような顔。
神威大和は続けた。
「奥田先生が、あくまでも飲まされて酔った勢いと言われても困るからさ」
奥田は、神威大和を見て、不安そうな顔。
神威大和は、ニヤッと笑う。
「とっておきの証人が来るよ、面白いことになる」
その言葉の直後だった。
剣道場のスクリーン、キャバレーの画面から、いかにも「極道風」の派手な衣装に身を包んだ男が歩いて来た。
そしてそのまま、奥田にフフンと笑い、声をかける。
「おや、奥田先生、どうして床にへたってるんで?」
「みっともねえなあ、シャンとしろって」
「いつもの威勢はどこにいっちまったんですかい?」
まさに江戸っ子遊び人そのものの言葉で、神威大和は笑っている。
奥田もハッとして、気がついたようだ。
「お前は・・・隣の席に座っていた・・・極道?あ・・・金さん?」
しかし、すぐに前言を翻す。
「いや・・・お前なんて知らん!俺がお前なんかの極道と知り合い?あるわけがない!俺は教育者だ!」
すると「知らない」と言われた極道風の男の顔が、途端に厳しく変わる。
そして、神威大和がクスッと笑うと、なぜか小次郎、武蔵、十兵衛、雷電が目を輝かせる。
聖母マリアがモーツァルトに何かを耳打ちすると、モーツァルトも興味津々の表情。
森田愛奈と杉田玲奈が、「もしかすると・・・あの人?」と、その顔を見合わせると、口上が始まった。
「奥田って踏み倒し野郎がいるってんで、馴染みのあんちゃんに言われて張ってたんだよ」
「なあ、奥田さん、昨日だって仲良く飲んだんじゃねえか」
「それを何だ?俺を知らない?」
それでも、首を横に振る奥田に対して、口上の質も、声の大きさも変わる。
「・・・じゃかましいやい!」
「おうおう…随分とシラを切るじゃねえか」
「いいか?目ん玉かっぽじってようく見やがれ!」
「極道風」の男は、突然、諸肌脱いで、その肩を見せつけた。
「おう!この見事に咲いた遠山桜、忘れたとは言わせねえぜ!」
期せずして神威大和たちは、聖母マリアまで大喝采。
奥田は完全に落胆、口を震わせ声も出ない。
剣道部員たちは、ポカンと口を開け「東山の金さん」を見つめている。




