着任
令和10年12月1日午前8時。
東京メトロ丸ノ内線国会議事堂前駅改札口に、パリッとした紺のスーツを着込んだ若者が現れた。
その若者が改札を通ると同時に、スーツ姿の若い女性が歩み寄る。
「神威大和様ですね、私、総務省の森田愛奈と申します」
「このまま、官邸の首相執務室まで、ご案内いたします」
「詳しい話は、そこで」
神威大和と呼ばれた若い男は、笑顔。
「お待たせしたでしょうか」
途端に森田愛奈は。身体全体に電流が走るような感覚。
不覚にも、顔を赤らめてしまう。
「あ・・・はい・・・15分前から・・・上司の厳命で」
その声も裏返り気味。
「どうみても年下の男の子に、何で、こんなに緊張するの?」と思うけれど、実は改札口で見かけた瞬間から、胸のドキドキが収まらない。
「まずは整った美形、このスタイルの良さ、歩き方にも品があるし、賢そうな顔、少し口元を緩めると、すごく可愛い」
「でも・・・どこか、とてつもなく怖い感じもある」
その神威大和から森田愛奈に声がかかった。
「通勤の人で混んでいるようです」
つまり、早く案内をして欲しいとの意思表示。
森田愛奈は、弾かれたかのように、「はい!ご案内します!」と、神威大和の前を歩き出した。