異世界?時代探訪 ザルツブルグでモーツァルトの生演奏を聴く
ますます意外なことが起こった。
「最近、流行りのショコラだよ、飲んでごらん?」
ニコニコ顔の若者、神威大和が言うところのモーツァルトが、森田愛奈に話しかける、しかも「日本語」として聞こえて来る。
森田愛奈は、違和感、そして身体の震えを感じるけれど、言われた通り「ショコラ」を口に含む。
「ショコラ・・・あれ?ココアか・・・美味しい・・・普通の日本で飲んでいるココアと変わらない」
「この時代のザルツブルグには、既にあった・・・250年ぐらい前・・・大航海時代の後だし・・・」
森田愛奈が懸命に考えていると、神威大和の声が、耳の中に響いて来た。
「言っていなかったけれど、この異世界では、それぞれの言葉で通じる」
「心配はいらないよ」
森田愛奈は、恐る恐る、目の前のニコニコ顔の若者に確認。
「あの・・・モーツァルトさんですか?」
言っていて、自分自身が「正気か?」と思うけれど、この状態では、「それもありかなあ」とも思う。
ニコニコ顔の若者は、さらに、笑顔を増す。
「うん、そうだよ、お嬢さん」
「神威君の言う通り、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト」
「信じられなかったら、何か弾くよ」
神威大和も笑った。
「ああ、モーツァルト君、それがいい」
「カフェの壁際にピアノがあるよ、あれで弾いて」
モーツァルトは、スッと立ちあがり、ピアノの前に座り、そのまま弾き出してしまう。
森田愛奈は、また驚いた。
「これ・・・知っている・・・フィガロの結婚をピアノで?」
神威大和は笑顔のまま。
「うん、生モーツァルトだなあ・・・これはいい」
「このまま連れて帰ろうか」
森田愛奈が「え?」と神威大和を見る。
するとモーツァルトが笑いながら神威大和に答えた。
「ああ、いいよ、楽しそうだ」
森田愛奈が「え?」と再び驚く中、モーツァルトのピアノはますます絶好調となっている。




