自由が丘の豪邸宿舎(3)異世界にて聖母マリアが杉田玲奈を抱きしめる。
神威大和は混乱のあまり、身体を震わせる森田愛奈に声をかける。
「先入観は捨てて、そのままを見て欲しい」
森田愛奈は、そう言われても「はぁ・・・何がどうなっているのか」としか、答えられない。
神威大和の口調は、厳かなものに変わった。
「人間の知能、理解力では把握できないことが、確かにある」
「逆に言えば、人間の知能、理解力で全てが解決できると思うほうが、その分を越えて傲慢で愚かなこと」
「例えば人は、太陽があり、星があり、月があることを知る」
「しかし、それらが何のためにあるのかを、知らない」
森田愛奈は、話の意外な展開に、また押される。
「はぁ・・・ごもっともです・・・でも、話が大き過ぎて」
さて、神威大和と森田愛奈の会話はともかく、杉田玲奈は神威大和に「聖母マリア」と言われた純白の長衣を着た、黒髪の美しい女性の前に進み出た。
杉田玲奈は、かなり緊張。
「あの・・・私をお呼びで?」
「あなたは・・・」
黒髪の美しい女性は、ゆっくりと両腕を広げ、杉田玲奈を抱きしめる。
「玲奈さんね、無事でよかった、来てくれてありがとう」
「私は、イエスの母、マリア」
「うんうん、驚かなくてもいいの、いい子ね」
そのまま「イエスの母マリア」が背中をなでるので、杉田玲奈は身体の力がすっと抜けていく。
杉田玲奈の声が湿った。
「あの・・・聖書に・・・教会におられる・・・聖母マリア様?」
「でも、どうして私なんかに?」
「聖母マリア」は、杉田玲奈を強く抱く。
「ずっと見ていたの、心配になって、神威君にお願いして」
「ここまで連れて来てもらって」
「私は辛いの、イエスの時も同じ、どんな理由でも若い人が命を落とすのが」
「人はみな、生きるために命を与えられ、生まれて来たの・・・それなのに」
杉田玲奈は、頬に熱いものを感じ、そして驚いた。
何と、「聖母マリア」が涙を流し、その涙が自分の頬に落ちているのだから。




