神威大和VS日本芸能界の闇(9)
バンドが前奏をはじめた。
曲は、若手歌手が歌っていた、三木の持ち歌。
「格の違いを見せてやる、聴かせてやる」と思って、マイクを探す。
しかし、マイクはない。
「そう言えば、マイクなしって・・・言っていやがった」と焦るけれど、親分も、他の立派そうな客も目の前にいる。
三木は、懸命に声を大きくして歌い始めた。
しかし、どうにもこうにも、伴奏の音が大きい。
手を振って「伴奏を抑えろ」と指示をするけれど、全く小さくならない。
それでも歌い続けようとすると、最前列の親分の機嫌が悪い。
舌打ちをして、睨みつけて来る。
三木は、ますます焦った。
何しろ、親分のそんな顔を見たことが無い。
結局、ワンコーラスの半分も持たなかった。
親分が大声をあげて、歌を止めた。
「やめろ!」
「何だ!三木!声が聞こえねえ!」
「ふざけてんのか!」
「歌いに来たんじゃねえのか!」
「まるで口パクじゃねえか!」
「お偉い人をたくさん呼んで、テレビ局まで呼んで!」
「俺を馬鹿にしてんのか!」
三木は、身体をガクガクさせながら、必死に言い訳。
「いや・・・マイクもなくて、バンドの伴奏も大き過ぎて」
「歌は歌っているのですが・・・」
親分は、「はぁ?」と、また怒る。
「何言ってんだ!お前の前の兄ちゃんだって、同じだ」
「マイクもなく、伴奏だって同じ」
「おい!三木!歌声が聴こえない歌手って歌手か?」
三木は、顔面蒼白、何も言い返せない。




