神威大和VS日本芸能界の闇(8)
若い男性歌手の歌が終わった。
盛大な拍手を受けている。
三木は焦るし、苛ついている。
「どこのどいつだ!」
「手前の歌が終わればいいってもんじゃねえんだ」
「俺の持ち歌を歌っておいて、申し訳ありませんって、謝りに来るのが当たり前じゃねえか」
「挨拶にも来ねえ!」
「後で、みっちり締めてやる」
その三木に、支配人は冷ややかな顔。
「歌もチマチマしていれば、性分もチマチマしているなあ」
「まず、歌手は歌で勝負したら?」
「上手ければ、拍手も多い」
「もっと聴きたいと思う、それが当然では?」
「あの若い歌手は親分がスカウトした、親分のリクエストで上手に歌った」
「三木先生が口出す資格はないよ、親分にケチでもつけたいの?」
そんな状態、ステージ裏でもたつく三木に、司会者から呼び出しがかかった。
「さて、皆様、お待ちかねの三木大先生が、ステージに登場します」
「皆様、万雷の拍手にて、お迎えください!」
「さあ!三木大先生!ステージにどうぞ!」
その司会を受けて、大きな拍手となったので、三木は気を取り直した。
「よし!実力の違いを見せつけてやる」
少しだけ、髪の毛を整え、満面の笑みを浮かべて、ステージにのぼった。
「ふ・・・確かに満員・・・」
「立派なスーツ姿、ドレス姿が多いじゃねえか」
「最前列に、馴染みの親分」
「あそこと、あそこにテレビカメラか・・・」
「よし!気合が入る」
三木は、いつもの、慇懃なお辞儀。
また大きな拍手を受けて、バンドにもお辞儀。
再び、客席に向き直ると、バンドが前奏を始める。
と、ここまでは、いつもの流れ。
しかし、歌い出した瞬間から、三木は地獄のような、震えあがるステージに立つことになる。




