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お誕生日おめでとう

作者: 朧 ゆり

「誕生日おめでとう」


 真夜中にベッドサイドで突然携帯電話が鳴ったかと思ったら、とぼけた言葉が耳に飛び込んで来た。

 声は間違いなく、つきあい始めて1年になる彼のもの。


「こんな時間に、誰の誕生日?」


 寝入りばなを起こされ、まだ醒めきれないままに尋ねる。


「おまえの」

「おまえって呼ばないで。

 ねぼけてるの?」

 日付を思い出せるくらいには目が覚めてきた。


「それとも別の彼女とお間違えかしら?

 昨日も今日も明日も、ついでに明後日も、わたしの誕生日じゃないから」


 二股されているかもと疑いが湧き上がり、声に怒りが混じる。


 明日も会社なのに、これからバトル? 

 大事なプレゼンを前に、万全のコンディションでいたかったのに。


 身構える耳に、入ってくるのは予想に反した能天気なトーン。

「ちゃんと覚えているよ。君の誕生日は、2ヶ月先。

 でも、間違いなく、君の誕生日におめでとう、だ」

 続けてわたしの名前を口にする。

 どうやら間違えてはなさそうだけど……?


 彼は上機嫌で続けた。

「今さ、けっこうきつかった仕事が終わって、ぎりぎり終電に間に合って、家まであともう少しっていうところ。

 街灯もところどころにしかない道なのに、やけに明るいなと思ったら、丸い月がかなり高いところにあるんだ。

 昨日が満月だったから、十六夜月だ。

 その月がものすごく、きれいなんだよ」


「で?」


 二股疑惑は晴れたけど、行方のわからない話に、爆発までカウント3つ残した声で促す。

「そしたらさ、なんだか幸せな気分になっちゃって、それでこの月の下におま…」

「おまえって呼ばないで」

「んん、ごめん。

 ……月の下に、きみがいるんだなぁと思ったら、出会えてうれしいなぁ、生まれてきてくれて、よかったなぁ。って思っちゃって」


 携帯電話を支えていた腕の力が抜けた。


「もしかして、かなり酔っている?」

「確かに酒はちょっとはいっているけど、それより月に酔っている」

「……なるほど」

 わたしはベッドの上に起き上がった。

 彼の言葉が、波のように胸にせまる。

 カーテンを引くと、プラチナの光が部屋いっぱいに差し込んできた。 

 

 漆黒の空の高みに、冴え渡る凍月。

 その下に広がるのは、透き通る光に縁取られた世界。


「なるほど」

 もう一度、繰り返す。


 携帯電話の向こう側でも月を見上げている気配がする。


「本当に、きれいね」

「だろ?」

 満足そうな彼の声が、月光のように柔らかく耳朶に響く。

 わたしはゆっくりと息を吸い込むと、わき上がる想いを手元の小さな機器に託した。


「あなたに出会えてよかった。


 ……お誕生日おめでとう」




      <了>


「なんでもない日、万歳!」

不思議の国のアリスの三月ウサギのお茶会で歌われるこの歌が好きです。


お誕生日だけでなく、お誕生日ではない日も、そこにあなたがいて、わたしがいて、同じ月をみたり、こうしてネットで一瞬つながったりする奇跡! 


そんな気持ちを物語にしてみました。

特に恋愛中の二人でなくてもよかったのですが、わかりやすいかと思いまして。


というわけで、こうしてここであなたに出会えた奇跡に感謝!



 




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