彼女が再び見つけたもの
処女作となります。
あるところに古い洋館があった。
其処には少女がいた。神からの恵みものである小麦が月明かりによって輝いたような金の髪の毛、霧のように透き通った白い肌、淡い桃色の頬……彼女は美しかった。
ただ、1つだけ、1つだけ彼女は人とは違う点を持っていた。彼女の姿は透けていた、空中を浮いていた。
そう、彼女は幽霊と言われる存在だったのだ。
そんな彼女を愛した者がいた。彼女の美しさに見惚れ、心を奪われてしまった。
彼女は最初、男を拒絶した。
“私は沢山の人を殺した悪霊なのだ”と言い張って。
男は諦めなかった。雨の日も、晴れの日も、楽しい日も、悲しい日も、どんな日でも彼女の元を訪れた。そして、彼女を口説いた。陳腐な愛の言葉で、歌で、手紙で……彼が持てる手段を全て用いて。
女は男の姿を見て、次第に心が絆されていった。男の存在を受け入れていくようになった。そんなある日、男は女の元に来なくなった。
1日、1日と時が過ぎてゆく。女は一人ぼっちだった。
男が訪れなくなったことで彼女は気付いた。
『私は彼を愛している』と。
彼女が気付いても男は訪れなかった。
何日も、何ヶ月も……。
女が男を待ち続けて一年がたった。その間、男が女の元に訪れることは一度もなかった。
女は悲しかった、寂しかった、苦しかった。男に気づかされた感情を男が来ないと満足させられないことが、男が来るまで心の奥に閉じ込めていた感情を自分で制御できないことが、男が来ないことが。
女は自分を嫌いになっていた。男を愛しいと思う自分の感情を、男が来てくれないことに苛立ちを感じている自分が大嫌いになっていた。
カタン
ドアが開く音がする。女はそっと扉の方を見た。
其処には男がいた。
人間ではなくなった男の姿があった。
“遅くなってごめんなさい”
男が声を発する。
女は嬉しかった。
男が人間でなくなった、でも、それでも、自分の元に訪れたことが。女は男の元に駆け、涙を零した。
一筋の透明で宝石のような涙が頬を伝う。
それでも女は笑っていた。嬉しそうに、幸せそうに。
男は女を強く、強く抱きしめた。男も泣いていた。
男が言った。
“今日は君を迎えに来たのだ”と。
“何時ぞやの返事を今、ください”
男は右足を後ろに下げ、膝を床につける。左手で幻影の指輪が入った箱を作り、右手で箱の蓋を開ける。見えたのは丸い金属の輪とそこに輝く一輪の、女の涙を固めたような透明な石。
男は女に中身を見せ、返事を迫る。
女は1つの答えを述べた。
あるところに古い洋館があった。
其処には誰もいなかった。
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