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66/80

66・コーヒー屋と牛乳屋のケンカについて、砂糖屋の奥さんは静観しているもようです。

作戦会議、とはいったものの、


「ふう、おいしかったわねえ。ところで誰か、作戦あるひとーーー?」


別に瑞恵に妙案があるわけではない。


「瑞恵さん、こういうときは、原点にかえりましょう」


橋田さんがおもむろに告げた。


「原点?」


「あたしたちの目的よ。感染症の特効薬、スライム仁丹を増やすために、増幅インフレアイテムを見つけるか、増幅インフレの魔法を使える仲間を見つけるか」


「そのへん、カズが詳しいんじゃない? ねえカズ、増幅インフレのアイテムって、どこで売っているかしら。ホームセンター?」


「アイテムは街の武器屋で売っているけど、増幅インフレなんて、見たことないよ」


「あら、そうなの。ワシさんが適当なこと言っていたのかしら」


「そんなアイテムがあるなら、ハモウナギやスライム仁丹を、それで増やしているよ」


「……おっしゃるとおりです」


「ねえ瑞恵さん、でもワシさんが、この期に及んでいいかげんなこと言うかしら。そろそろ本気で薬をなんとかしろって言いたげな、雰囲気だったじゃない」


「じゃあ、魔法のほうかしら。増幅インフレの魔法ってやつを、使えるひとを探す」


「魔法なら、あるかも。特殊な能力を持っているひとはいっぱいいるはずだよ」


カズが答える。


「だって。橋田さん」


「問題は、能力の持ち主をどうやって探すかよね」


「求ム!インフレ魔法!! って、プラカード掲げて歩くのはどうかしら」


「うーん。それで名のりをあげてくれるかしら。だって、特別な力って、ひみつにしておくでしょ」


「そういうもの?」


「切り札になるわけだから、べらべらしゃべったりしないんじゃない?」


「確かに。じゃあまず、能力者候補からおばちゃんは外せるわね」


「どうして?」


「おしゃべりだから」


「確かに、あたしや瑞恵さんがそんな能力持っていたら、間違いなくしゃべっているわね」


「そうそう。そして、あっという間にご近所ネットワークでうわさが広がる」


「瑞恵さん、それよ!」


「んん??」


「おばちゃんたちに聞き込みをすればいいのよ。井戸端会議の輪に入って、さりげなーく、増幅インフレの能力者の情報を引き出すの!」


「いいわね、それ! ねえカズ、このへんでおばちゃんが集まっていそうなところ、ない?」


「え……どこだろ……ぼく、おばちゃんにくわしくないからな……。森の入り口のギルドか、この少し奥にある小さな街か……」


「入り口に戻るのもつまらないから、街に行きましょ。はいはい、レッツゴー」


「ミズエー、どこいくのー……むにゃむにゃ」


「瑞恵さん、さっきからニコラは寝てばっかりね。オムライス食べたと思ったらまた寝ている」


「この若さで食っちゃ寝をしようとは、生意気だわ。ニコラ、起きなさーい。行くわよ」


「ぼくがだっこしてあげるよ。ほら」


カズが両手を広げ、ニコラを抱き起こそうとするが、


「重っ。瑞恵おばさん、この子、岩みたいに重いよ!!」


「この子はね、こんなに小さくてかわいらしいけど、中身が詰まっているのよ。ほらニコラ、自分で歩けるでしょ」


「……うん……ニコラ、だっこが、いい……」


「ねえニコラ、街に行ったら見たことのない食べ物がきっとあるわよ。がんばって歩いたおりこうさんには、どんなおやつが待っているかしらねえ」


ニコラの目があやしく光った。


「ミズエ、ハシダ、はやくいくよ! おやつ、なくなるよ」


「あ、こらちょっと待ちなさい! 食べ物のこととなると、この子は……!」


「ニコラ、ぼくと手をつなぐんだよ。そうしたら、迷子にならないからね」


「……カズがちんたらしてたら、おいていくからね」


「……くっ」


◇◇◇


街は、森の中に突然現れた。


生い茂る木々を抜けると、にわかに視界が開ける。


葉のみどりとも、花々の色彩とも異なる、人工的な明るい色が目に飛び込んでくる。


「久しぶりに、特売チラシを見た気分だわ!」


瑞恵は店の軒先をかざる、おもちゃを指して歓声を上げる。


「本当ね、瑞恵さん。自然の色もいいけれど、あたしたちがわくわくする色って、この色よね!」


橋田さんもきょろきょろと、カラフルなお皿や、着方の分からない鮮やかな布地の服を見回して声を弾ませている。


「橋田さん、すごいわね。久しぶりにお買い物に来た! って感じ」


「ほんとほんと。……って瑞恵さん、あたしたち、お金、持ってないわよ」


「なんですと……?」


橋田さんの小声をニコラが聞き逃さず、おばちゃんふたりをじろりと見上げる。


「おかね、ないの? ニコラの、おやつは??」


「うっかりしていたわねえ。ニコラ、とりあえず飴あげる」


瑞恵がポケットからあめ玉を取り出す。


「これ、だんちのおやつだもん。ここの、おやつじゃないよ」


「そんなこと百も承知よ! しょうがないでしょ、ここに来た目的は、井戸端会議の潜入調査なんだから!」


「うえーん、ミズエが、だましたー」


「そうでもしなきゃ、あんた食っちゃ寝しているだけでしょ! それともなあに、あそこでひとり、お留守番していたかったの?」


「うえーん、ミズエの、いじわるーー」


ニコラが盛大に泣きわめく。


「はいはいよしよし。子どもが泣きやむ魔法って、どこかで売ってないかしらねえ」


瑞恵がニコラを撫でながらため息をつくと、


「おやおや、どうしたの。真っ赤な顔して泣いちゃって」


小柄なおばちゃんが笑いながら近づいてきた。


「どうもすみませんうるさくして」


「なんのなんの。この広場はにぎやかにやってなんぼのものだよ」


「うわーん、うわーん」


「このくらいの子は、よく癇癪を起こすからねえ。うちにも孫がいて、よくわかるわよ」


「この子は、かんしゃくっていうよりも、食いしんぼうが度を超しているだけなんですけどねえ。お孫さんはおいくつ?」


「よっつだよ。この子と同じくらいかな」


「あら、ニコラといっしょ」


おばちゃんが立ち話をしていると、なぜかふと目のあったおばちゃんも、呼ばれたのごとくやってくる。


おばちゃんは、おばちゃんを呼ぶ。


「あらかわいいおじょうさんだこと。わんわん泣いて、どうしたのさ」


「ちょっと眠たいんじゃない? 奥さん、あそこの石段で休ませたら?」


「あの石段の上にある貯金箱屋のこと、聞いた? こんど、へそくり専用の新商品を出すらしいわよ」


「あら、どんな貯金箱なのかしら。興味あるわー」


「へそくりをしている本人以外に見つかったら、『これはへそくりじゃありません!』って、撃退してくれるらしいわ」


「あら優れもの。そういえばさ、貯金箱屋の裏のコーヒー屋さんの奥さん、牛乳屋とけんかして、自分でミルクも売るようになったそうよ」


「まあ珍しいこと。コーヒー屋さんと牛乳屋さんは、相性ばっちりのはずなのに」


「もう牛乳なんかいらない! って怒って、ミルクポーションっていう、こーんな小さいポーションに、ミルクを濃縮したものを作っているらしいわ。あの奥さん、濃縮魔法の使い手だったのね」


濃縮魔法、という言葉に橋田さんがぴくんと反応した。


「まあすごい! ねえ、増幅インフレの魔法の使い手は、このあたりにいないかしら」


さりげなく、話題を振る。


増幅インフレ? ああ、あの奥さんよね……」


「あのうわさは、ほんとうなのかしら……」


いつのまにか10人ほどに膨れ上がったおばちゃんたちが、顔を見合わせて言葉を濁す。


「ほんとうなら、すごいことだけどねえ……」


「でも、増幅が使えるなんて、ちょっとねえ……」


「うそつきか、そうでなければ魔女たちの手下なんじゃないかしら……」


「魔女たち? それって、もしかしてピンクのおばさんと、マダム・フロリーヌのこと?」


「瑞恵さん、こっちでは『ショッキングピンク・ノ・オバサン』と『アクマ・フロリーヌ』よ」


「魔女といったらその2人組さ。まああたしたちも、姿を見たことはないんだけど」


「この先のパン屋の奥さんがねえ、増幅インフレ魔法の使い手だってうわさなんだけど」


「「「まあ、うわさよねーーーー」」」


「……瑞恵さん、どうする?」


「そりゃ、行ってみるしかないでしょ」


「ミズエー、ぱんやさん、いくの?」


「そうよ。ニコラもいく?」


「ぱんやさん、いくー」


「食べ物ならどこへでもついて行くのね、この子は……」


瑞恵たち一行と、おばちゃんたちは、くだんのパン屋へ向かった。


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