61・マダム・フロリーヌが優秀って今さら教えてもらっても、なんか説得力ないし…
団地に帰還した瑞恵のもとに、ワシさんからかかってきた電話。
瑞恵のやることなすことに、だいたい呆れていたワシさんだが、今ばかりは声を弾ませている。
『ようやく、モンスターと戦って、勝利をおさめたらしいじゃないか。ギルドから、連絡があったぞ』
「橋田さーん、ワシさんがモンスターがなんとかかんとか言ってるんだけど……何のことかしら」
「瑞恵さん、ちょっとスピーカー設定にして」
「うん」
「ワシさーん、あたし、橋田ですけど。お久しぶりですー」
『おお。お主も元気でやっているようだな』
「モンスターがどうかしたんですか?」
『どうかしたって……お主たちが、大量のスライムを退治したと聞いたんだよ』
「ああ、しゅらいむちゃんのコピーのことね。そういえばあれ、モンスターだったわね」
「なーんだ、しゅらいむちゃんのことか。ワシさん、ちゃんと固有名詞だしてよね! 『あれ』とか『それ』とかばっかりでしゃべっていると、老化が進むわよー」
『……お主に言われたくない……そしてワシは、あれとかそれとかじゃなくて、ちゃんとモンスターと言った……』
「まあまあ、細かいこと気にしなさんなって。で、しゅらいむちゃんがどうしたの?」
『そうそう、スライムだよ。お主たち、石化じゃなくて、塩水に漬けて仁丹化したんだろ?最初からあの方法にたどり着くパーティーは珍しいんじゃ』
「ふうん」
『なんじゃ、その気のない返事は……。まあいい、で、スライム仁丹は持って帰ってきたんだろ?』
「もちろんよ。あんないい山椒はないわ」
『へ?』
「ねえ橋田さん、これ、潰して団地のみなさんにお裾分けしない? こんな色だけど、極上の山椒だもの」
「そうね。しばらく留守にしていたし、おみやげにちょうどいいわね」
「ミズエー、なんかつぶすの? つぶすの? ニコラも、つぶす!!」
「あんたが潰す潰す連呼すると、不穏だからやめてくれない?」
『おい、お主ら。お主らは団地ごと異世界に転移したってことを、すっからかんに忘れているんじゃなかろうな……。お主ら以外の住人は、元の世界の団地にいるんだぞ。おみやげなんて配れないぞ』
「「ハッ!!!」」
『ハッ!!、じゃない!! それにもまして、スライム仁丹を潰すとは何事じゃ。これは山椒じゃなくて、薬じゃ!!』
「そういえば、これでカズのケガが治ったわね」
「そうね、瑞恵さん。つまみ食いしたニコラのステータスもぐっと上がったし」
『まだ分からんのか! お主たちが異世界に来た理由は! さん、はい!!』
「「感染症の、特効薬を見つけるためです!!」」
ハッ!!!
「橋田さん、もしかして、これが……」
「これが、感染症の特効薬なの……!」
瑞恵と橋田さんは目を見開き、手を取り合い、ぶんぶん振る。
「橋田さん、やったわね! これで本当の団地に帰れる!!」
「瑞恵さん、やったわね! これで外出自粛もなくなる!!」
『喜び方が、いまいち利己的だが……まあいい、それに、このスライム仁丹だけじゃ、めでたしめでたしとはいかんのじゃ。まず、量が圧倒的に足りない。増幅アイテムを見つけるか、増幅の魔法をかけなければ』
「水で戻したらだめかしら。増えるワカメみたいに」
『ダメに決まっているじゃろ! 真水につけたら、ふつうのスライムに戻ってしまうじゃろ!』
「あ、そうか」
『しかしお主らはラッキーじゃよ。パーティーに、魔法のつかえる踊り子がいたな。さっきから、声が聞こえないが……』
「マダム・フロリーヌのこと? マダム・フロリーヌなら、ピンクのおばさんと暮らすから、ここにはもういないわよ」
『なんだって! あんな優秀な人材を、追放したのか!?』
「追放だなんて、人聞きが悪いわねえ。そんな一方的な別れじゃないわよ」
「そうよ。あのふたりを引き離すほうが、良くない感じもしたし。それに、小さなニコラを置いていくわけには、ねえ」
「ミズエー、ハシダー、みてー。ニコラ、こんなにつぶしたよー」
ニコラが満面の笑みで、粉々に潰したスライム仁丹を見せる。
「あ、ニコラ! なんかこれ、潰しちゃダメだったみたいよ!」
「やだどうしよう。半分くらい、潰しちゃったじゃない」
「ミズエー、ハシダー、ニコラおてつだいしたよー。ほめてー」
「わるいけど、褒めている場合じゃないわよ。どうしよう、橋田さん」
「この電話、テレビ機能はついてないわよね? じゃあワシさんには見えないから、ばれないんじゃない??」
『全部、筒抜けだよ……』
「ニコラ、いっぱいつぶしたー。えらいから、はもうなぎの、ゆびき、もらえるー」
「しつっこいわねえ。ハモは買わないって言っているでしょ」
「ニコラ、オムライスでいいでしょ。ケチャップで、お名前を書いてあげるから」
「……おなまえかいても、けちゃっぷのあじ、かわらないでしょ」
「瑞恵さん、ニコラがなんか、生意気よ!」
「今に始まったことじゃないわ。で、これからどうしたらいいのかしらねえ」
『……とにかくじゃ、まずは増幅のアイテムか、魔法の使える仲間を見つけることじゃ』
「はーい……」
『あと、潰したスライム仁丹も、ちゃんと取っておくんじゃぞ。薬の効力はあるんだ。「潰しちゃったからしょうがないわね、山椒として使いましょう!」なんて、ゆめゆめ思うなよ』
「あ、ばれてる……」
「ミズエー、おなかすいたー」
「はいはい。ちょっとワシさん、あたしごはんの用意するから、切るわよ」
『ワシも、オムライス、食べたいな……ケチャップで、ワシ、と書いて……』
瑞恵は電話を切った。
「まったく大変ねー、冒険ってやつは」
どっこいしょ、と瑞恵はソファにおしりを沈める。
「ミズエー、ごはん、ごはん」
「はいはい。ねえ、ニコラもさ、驚異の胃袋だけじゃなくて、なんか魔法使えたりしないの? あんたも、マダム・フロリーヌと同じ異世界の人でしょ?」
「つかえるよ」
「え?」
「ニコラ、まほう、つかえるよ」
読んでくださってありがとうございます!
「ねえねえ橋田さん、次の冒険のテーマは、魔法みたいね」
「そうね。あたしたちも使えたらいいんだけど」
「あたし、使えるようになったわよ、魔法」
「え、ほんとに!?」
「このね、ブックマークっていうのと、お星様マークを、ポチポチポチポチポチってするの。そうすると……ポイントが、増える!」
「なんと! すごい魔法ね!!」
「この魔法をかけてもらえると、あ、生きてる……!って、幸せな気分になります」
「みなさん、どうぞよろしくお願いしまーす!」
……失礼しましたー。
お気に召したらブクマ、ポイント、どうぞよろしくお願い致します!




