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58/80

58・桃から生まれたモモちゃんが内側からあらかた食べ尽くしていたため、残念ながら桃はおばちゃんたちのおやつにはなりませんでした。

「この、黄金のハモうなぎが、セーブポイントに関係あるの?」


瑞恵はニコラのリュックをなでながら、ピンクのおばさんに尋ねる。


ピンクのおばさんに首根っこをつかまれて、すっかりおびえていたハモうなぎだが、瑞恵のなでなでに気を許したようで、リュックのなかでうにょうにょ動き始めた。


「黄金のハモうなぎの昔話がある」


ピンクのおばさんが、おごそかな調子で切り出した。


「……この国に伝わる、だれでも知っている昔話さ。もちろん、小娘も知っている、ね?」


おばさんがニコラをじろりと見る。


「ニコラ、これからのおんなだから、むかしばなし、しらない」


あくまでシラを切るニコラ。


「ふん、じゃああたしが話してやろう」


一同はピンクのおばさんを囲んで車座になった。


◇◇◇


むかーしむかし、といってもそこまで大昔じゃなくて、中くらいの昔のことです。


あるところに、おばちゃんと、おばちゃんがいました。


おばちゃんが川に洗濯に行くと、もうひとりのおばちゃんも川に洗濯に行きました。


おばちゃんが山に柴刈りに行くと、もうひとりのおばちゃんも山に柴刈りに行きました。


分担したほうがよくない? と人々は言い、おばちゃんたちもときどきはそう思いましたが、何だって、ふたりでやったほうが楽しいし、楽しいと、何だってあっという間に終わるんです。


それに、ふたりでいるから、大きなかぶを見つけたら力を合わせて引っこ抜けるし、どっちかがおむすびころりんしても穴に落ちる前につかまえて食べ物をムダにしないで済むし、竜宮城へのお誘いを受けた場合は裏がありそうだからやめておこうという冷静な判断もできるのです。


ある日のことです。


おばちゃんとおばちゃんが川で洗濯をして、どちらかというと洗濯よりおしゃべりに力を入れていると、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。


「あ、桃だ」


おばちゃんのひとりが、言いました。


「わあ、桃ね」


もうひとりのおばちゃんが言いました。


この時点でふたりとも、あの桃はきょうのあたしたちのおやつ、と全く疑うことなく決めてかかりました。


おばちゃんは、害のない思い込みが激しいのです。


桃はどんぶらこ、どんぶらこ、と流れていきます。


「「桃、待て待てー。あたしたちのおやつ、待て待てー」」


おばちゃんたちが追いかけると、桃はうまい具合に岩に引っかかっておりました。


「やった、ラッキー。すごく大きい桃ね。どこ産かしら」


「まずは丸かじりしてみる? 川の水で、気持ちよく冷えているわ」


おばちゃんたちは力を合わせてどっこいしょ、と、どんぶらこよりも少々腰の重い掛け声で桃を引き揚げました。


「ふう、引き揚げたらおなかが空いたわね。もうここで食べよう」


「そうね。ちょうどお茶の時間ね」


おばちゃんたちは、ごはんの時間以外は全部、お茶の時間です。


「「せーの、とやー」」


ふたりで力を合わせて、大きな桃を割ると、


「……なにするんだよう。ごはんの、じかん?」


なんと中から、わりとふてぶてしい様子の女の子が出てきました。


「あら、桃から生まれたモモちゃんじゃない」


「ごはんはまだよ、あたしたち食べたばっかりだから。今は、お茶の時間」


「ふうん。まあ、いいや。おちゃ、ちょうだい」


「あらよかった。ミルクじゃなくて、お茶で大丈夫なのね。生まれたてなのに」


「あと、おちゃうけには、しょっぱいものがいいな」


「まあ、渋好みだこと。家に帰ったら、せんべいがあるわよ」


というわけで、さっさと洗濯物をまとめて、3人は家へと向かいました。


「ところでモモちゃんは、なんで桃の中に入っていたの?」


おばちゃんのひとりが問いかけました。


「ちょっと、まちがえたんだよね」


モモちゃんは、頭をぽりぽりしながら言いました。


「間違えたって、何を?」


もうひとりのおばちゃんが問いました。


「ほんとうは、たけのなかに、はいるはずだったんだよ……」


「あら、あなた竹に入るには、ちょっと大き過ぎない?」


おばちゃんのひとりが、女の子のぷっくりしたおなかを見て言いました。


「もものなかにいると、ももたべほうだいだから、つい」


「竹のなかのお姫様よりも、桃から飛び出して冒険に出かけるほうが楽しいんじゃない?」


「……ほんきで、そうおもってるの?」


女の子は、ふてぶてしい目つきで言いました。


「いぬとか、さるとか、きじとか、おにがしまにつれていくだけでもたいへんなんだよ。うちにいて、ごろごろしてるほうが、いいよ」


「確かにそうねえ。竹から生まれたかぐや姫のところには、家でごろごろしていれば、男の人があれこれ持ってきてくれるって噂だもんね」


「そんなにうまくいくもんかしらねえ。交際をお断りしたら、今まで君に懸けてきた金と時間を返せ! とか、言い出すんじゃない?」


「あらめんどくさい。モモちゃん、あんた桃から生まれてよかったわよ。誰かに何かしてもらうより、自分で好きに暮らす方が楽しいから」


「ふうん。まあ、そうなのかもね」


明らかに自分で好きに暮らしているおばちゃんの様子を見て、モモちゃんは納得したようでした。


「あら、うちのまえに誰かがいるわ」


「誰かしら。おーい」


おばちゃんちの前にぼさっと立っている3人の若人が振り返りました。


犬、猿、キジでした。


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