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46/80

46・焼きのりというのは大阪のおばちゃんの飴ちゃんと同じくコミュニケーションのコンテンツだと思うの。

名前:ニコラ

年齢:4

職業:子ども

体力:眠い、と思うまで減らない。もう寝る、と思ったらゼロ

特技:驚異の胃袋

装備:塩、塩辛、筋子、梅干し、炙りたらこ、焼きのり

レベル:測定不可能


鏡に浮かぶ文字を見て、冒険者ギルド受付のおじさんは面食らっている。


「なんですか、このめちゃくちゃなステータスは。強いんだか弱いんだか、というか何しに来ているんだか」


「ニコラ、あんたが勝手に持ってきた食料が、ばればれよ。塩分取り過ぎ。高血圧予備軍だわ、まったく」


「ぜーんぶ、ミズエのだんちにあったやつだよ。ミズエも、えんぶんとりすぎだよ」


「あたしはちゃんと、肉も魚も、お米もおやつも、甘いのも酸っぱいのも、食べているからいいんです!」


「こぶとるよ……」


「小太るなんて、イヤミな言葉作らないの! はっきり、太るよって、言えば言いじゃない!!」


「いったら、きずつくくせに……」


「ニコラ、あんまり瑞恵さんをいじめないの。じゃあ次はあたしね」


橋田さんが鏡の前に座り、深呼吸してから「ステータス、オン!」と唱える。


名前:橋田

年齢:57

職業:おばちゃん

体力:良

特技:カルチャースクール仕込みのちょっとした素養。おばちゃんのコミュ力

装備:皮剝ぎ包丁、骨切り包丁、救急用品、簡易トイレ、ホイッスル、雨具、ミニようかん(4本)、氷砂糖、オレンジジュース

レベル:測定不可能


「やだあ橋田さん、甘いものしか持っていないじゃない」


「瑞恵さん、ようかんは非常食にいいのよ。ほどよく水分があるから、食べやすいし」


「体力:良っていうのは、優・良・可・不可の良ね」


「そうね。おばちゃんにしては、まあまあよね」


「よーし、じゃあ次はあたし! ステータス、オン!」


いそいそと鏡の前で唱える瑞恵。


名前:瑞恵

年齢:58

職業:おばちゃん

体力:優、ところにより不可

特技:料理。食料視。おばちゃんのコミュ力

装備:出刃包丁、ハモ切り包丁、番茶、塩、コショウ、ヘイアンキョウのにんにく(乾燥)、ショウガ、ごま油、しょうゆ、黒糖、雨具

レベル:測定不可能


「あたしの装備が、いちばんバランスいいわよね、おじさん」


「まあ、特技とリンクしているねえ……。しかしなんですか、この食料視っていうのは。こんなの初めて見ましたよ」


「瑞恵さんが何でも、食べ物として見るってことじゃないかしら。モンスターのことも、戦う相手だと思っていないでしょ?」


「だって、ただ戦ってやっつけるだけなんて、しのびないじゃない……やっぱり、命は奪ったら、おいしくいただかないと」


「……立派なようで、わりと怖い思想よね、それ」


「あたしの体力の、優ところにより不可っていうのは、どういう意味かしら」


「瑞恵さん、どこか部分的に具合の気になるところがある?」


「うーん、強いていえば、お腹まわりかしら……」


「オッケー、問題ないわね」


「おじさん、あたしたちのステータスを見て、どんなモンスター退治がぴったりだと思います?」


「……おねえさん方、レベルがみんな、測定不可能だよ。これじゃどれを紹介していいのか、分からないよ」


おじさんのピンクのひげが、クエスチョンマークをかたどっている。


「ええー。ステータスを見れば分かるって、言っていたのにー」


「こんなステータス見たことないよ! 能力を数値化するから便利なのに、あんたらときたら数字で出てきたのは年齢と、ようかんの『4本』だけじゃないか!!」


「そんなあ、あたしたちに怒られてもねえ、橋田さん」


「ねえ。もしかして、鏡が壊れているんじゃない」


おじさんのひげが、ピンと逆立った。鏡にあらぬ疑いをかけられて、むっときたらしい。


「わーうそうそ。おじさん、気を悪くしないで。鏡とあたしたち、けんか両成敗ってことで」


「瑞恵さん、両成敗じゃおじさんの機嫌直らないわよっ」


「ええー。そもそも鏡のせいにしたの、橋田さんじゃない」


「瑞恵さんだって、そう思ってたでしょ」


「まあね」


「ほらね」


「おじさん、おばちゃんのすることだから、ゆるしてあげて。はい、やきのり」


ニコラがハンカチを差し出すかのごとく、焼きのりを差し出す。


「いいこだねえ、おちびさん。しょうがない、この子に免じて許して差し上げよう。んんっ、この食べ物は初めて口にしたよ。こんな薄っぺらいのに、深い味がするねえ」


ニコラが無垢な笑顔でおじさんを見上げる。おじさんもつられて、にっこり笑う。


「橋田さん、あの子、女優ね……」


「あたしたちより、コミュ力高いわ……」


「そうだなあ。おちびさんに危険がなさそうで、そこそこの報酬がある依頼というと……おお、これなんかどうだい」


おじさんは明らかに、ニコラに向けて一枚の依頼書を見せた。


上からのぞきこむおばちゃんふたり。


『急募!! スライム退治お願いします。飼っていたスライムが増えすぎて困っています。一部は野生化し、暴走のおそれあり』


「なにこれ、どういうこと。飼ったなら最後まで面倒見るのが、飼い主の責任でしょ」


思わず憤る瑞恵。


「瑞恵さん、なにか理由があったのかもよ。おじさん、この方どういう事情なのかしら」


「何でも子どもがこっそり、赤ちゃんスライムを持って帰って部屋で飼っていたそうなんだ。でもスライムってのはモンスターだからね、魔力が上がる前に始末しなきゃならない。ところが剣で切っても、踏み潰しても、分裂して増える一方でね。とうとう音を上げてギルドに相談に来たってわけさ」


「なるほどねえ。子どもって本当、変なもの拾ってくるからねえ」


「うちの創太も小さい頃、カマキリの卵拾ってきてさあ。ベランダに置いておいたら、大量の赤ちゃんカマキリが孵化して大変だったわ」


「うちの瑞生も、アゲハの幼虫にはまってね。次から次へ拾ってくるのよ、本当に困った」


「ミズエー、ハシダー、これ、やるの? きまり?」


「そうね。小さい子のいるおうちなら、ニコラも楽しいでしょ、きっと」


「瑞恵さん、あたしこの異世界には、おみやげ持ってくるの忘れちゃったわ。どうしよう」


「あらやだ、あたしもよ。……橋田さんのようかんが、一番おみやげっぽいわね」


「これ、非常食よ。お持たせならもうちょっと、大きなものにするのに……」


「ミズエー、ハシダー、はやくいこうよう」


「ふふふ、ニコラ、張り切っているじゃない」


「瑞恵さん、待って待って。マダム・フロリーヌ、何しているのー。行くわよー」


鏡の前に座っているマダム・フロリーヌに橋田さんが呼びかける。


「これこれマダム・ミズエ、マダム・ハシダ! あたしのステータスを見なさい!」


名前:マダム・フロリーヌ

年齢:不詳

職業:元踊り子、元門番女

体力:85

特技:治癒魔法の名残り、「くさいいき」の名残り

装備:牛刀、鍋、マッチ、ろうそく、ヘイアンキョウの櫛、どら焼き

レベル:58


既にニコラは扉に体当たりをかまして外へ出ており、瑞恵が慌ててそれを追い、橋田さんも走り出している。


「くぅぅう、まったく! 見てご覧、あたしはちゃんと、数値が出ているよ!! 冒険者の先輩だからね!!!」


「ほほう、なかなかのレベルですね。治癒魔法が使えたということは、のちのち、きっと役に立つでしょうなあ」


「そうだよ、なのにあの人たちときたら、あたしのありがたみをちっとも分かっていないんだから。あーあよっこらしょ、仕方がないから行ってくるよ」


「はいはい、お気をつけて……」


しんがりのマダム・フロリーヌが足早にギルドを去る。


小さくなっていく4人の後ろ姿を窓から見つめながら、おじさんのピンクのひげが、奇妙にはねた。


「スライム退治よりも……あの依頼者のほうが数倍、危険かな……」

読んでくださった方、ブックマークしてくださった方、お星さまをポチってくださった方、皆さまありがとうございます!

次は水曜日に更新します。

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