進捗ダメです
精神移植から三ヶ月程経ちまして。
進捗ダメです。部屋から一向に出られません。この世界の人間の身体は角質やら皮脂やらと無関係の様で風呂要らずのオールウェイズつやつやすべすべなのはいいが私はそれでもお風呂に入りたい。ヘアートリートメントはおろかシャンプーすらしてないのに銀髪は天使の輪っか付き。いや便利なのはいいが私はそれでもお風呂に入りたいよ…。この生活が始まった当初は積極的に行動しつつも、『なんだかんだ言いつつ十中八九夢なんでしょ?まぁもしも夢じゃなかった時のために一応行動するけど本当は夢なんだよね?』となんだかんだ半分くらい現実逃避していた様に思うが、今ではもう少なくとも当分はこの生活が続くと受け入れている。人生辛いね。涎が出る程愛おしき私の娯楽達よ、君達は一体どこへ行ってしまったんだい?元の世界へ帰れるかどうか、こちらの世界への滞在時間はいか程か、分からない事だらけだけど長引く様なら私は娯楽抜きで生活するつもりはない。とりあえずおしゃべりできる友達からでいいから欲しい。いやとりあえずとか言わずに友達が一番欲しい。ルルブには一緒に遊べる友人は付属してないんだよ。
知識の把握に関してはあれから、百科事典や伝記は残念ながら手に入らなかったが貴族名鑑と国内地図と大陸地図を受け取る事が出来た。歴史の授業も大分進んで、『天恵の双塔www建国神話ワロスwww』とか思っていた、創造神がおっ建てたらしい塔が実際に存在していて実際に我が国の食料供給の大半を賄うどころか周辺国への食料輸出分すら賄っていて周辺一帯はこの塔の不思議パワー産出食料に依って支えられているということが大真面目な事実だと分かった時には流石に驚いたね。ついでに王族の情報を漁ると、私と同年代の王子様がいるらしい。私ピンと来たね、両親は私をこいつに嫁がせるつもりで産んだんだと。だったらもうちょっと丁寧に扱えよとか思うがどんな思惑があるのやら、少なくとも私はこんな教育のされ方で嫁いだ後に実家に親孝行してやろうとか欠片も思わんぞ。あと、我が家のこうしゃくはどっちかと調べると侯爵だった。アイアム侯爵令嬢。もっと丁寧に扱えよ。それから、辺境伯がどいつもこいつも対諸外国強硬派筆頭格と紹介されていてあー戦乱の世が始まるんですねハイ、と憂鬱な気持ちになった。アニメでも漫画でもゲームでもいいがストーリーのある世界なんだろう?んなもん関係ないよただの異世界だよってのは無しだ、アニメ目とくの字の鼻が全てを物語っている。この世界はまぁ実際に生きている人間がちゃんと意思を持って生活しているとかいうことは横に置いておいて、日本の創作物の影響を強く受けているのは多分間違いない。じゃぁ戦争は起こるんだろう、ドラマがないとストーリーが作れないからね。せめて私がなんらかの行動を起こせる様になってから戦争が開始して欲しいものだがどうなることやら。食糧事情を見るに全方位タコ殴り戦争とかにならない限りこの国が優勢で無難に終わりそうだけど、だからこそいざ戦争が始まれば周りみんな敵になるんだろうなと予想がつく。やんなるね。
魔法に関しては…単純攻撃・拘束・精神汚染・睡眠状態異常あたりは最初のうちに思いついたがそれからも、闇属性でも回復する呪文をうんうん唸って考え出したり、自分に有利なフィールド…という感じは全然ないけど相手が有利フィールドを展開した時に上書きする用のフィールド作用呪文を作ったり、自動防御してくれるヤンデレ呪文を作ったり、あれこれと試すのは楽しかった。というかこれしか娯楽がなかった。無詠唱とか出来ないかなーとか試したけど全然ダメで、魔力消費量は勝手に決定されるけどどうにか自分で操作出来ないかなーとか試したけどそもそも体内の魔力を感知もできなければ動かすことも出来やしなかった。異世界魔法無双は夢のまた夢のようだ。悔しい。ただ、未だ自分の魔力の限界を知らない。フハハハハ、限界を知りたい。私の行動限界範囲は部屋の中です、本当にありがとうございました。
それと習い事だが、最初からしれっと華道を習っていたが銀髪青目幼女に華道?なんか違うくない?と最近になって違和感。でもお花を活けるのは他の習い事に比べたら楽しいからいい。声楽なんて腹から声出したら令嬢らしくないっていってダメだしされるんだぞ。小鳥の囀るような声が良しとされるんだと。ピヨピヨ。良しとされるっていうなら小鳥連れてこいよ、私こっちの世界に来てから鳥の鳴き声聞いたことないぞ。ヴァイオリンも二回程やらされたが教師が匙を投げて帰っていった。才能がないとかいうな、私侯爵令嬢ぞ、もっと丁寧に扱え。まぁこの世界の貴族は音楽に関しては声楽さえ出来ていれば後は鑑賞にまわっていればいいらしい。ピアノ弾けとか言われたら多分泣いてたからそこはありがたい。
しかし、歴史と地理を習いマナーの勉強をして魔法の知識だけ詰め込まれ(勝手に練習してるけど)習い事をこなす日々。お貴族様の勉強としては片手落ちというか、政治や経済に関する勉強がないのはどういうことか。おかげで私はこの世界の通貨も知らなければ取引の形態も知らない。
「まさか」
思わず声が漏れる。三ヶ月も経って今更というかなんというか、まさかという考えが浮かんだのは、政治に一切口を出さないお飾り人形の姫にするつもりで私を育てているとか?そうだとしたらうちの両親は娘のことを一切考えていないし娘が嫁いだ後の利益供与も一切考えていないしお国のことだけを考えてるってことか。うわー引いちゃう、そしてそんな方法で娘を育てて最初は便利なお人形さんになったとしてもどこかで情緒が育ち始めると捻くれ捻じくれ碌でもない性格になるのは間違いない。あーあ、悪役令嬢コース見えちゃったわ。そして両親よすまんな、精神移植のせいで無感情人形はどこかに消えて貴族と縁遠い一般人がインストールされちゃったから。
「夜は優しき母。スリープ」
嫌な事実が見つかったような、論理の飛躍があったような、しかしもう今日は何も考えずに寝たい気持ちになったので安眠魔法に頼る事にする。三ヶ月の練習は伊達ではない、頑張って呪文を切り詰めても発動するようにしたのだ。要するに心が揺さぶられる強度に魔法の強さが依存するっていうなら心の方をあらかじめパブロフの犬の如く短いワードでしっかり揺れるように調教しとけばえぇんや。あぁ心地よい眠気が…スヤァ。
主人公は自己暗示ガチ勢
方法は簡単、ストーリーを自分で考えて、全力で感情移入しながらボッチでガチロールプレイするだけ