第二次魔法自主訓練
「穿つは心の澱、徐に刺さり色は褪せる。ダークニードル!」
うーんいい火力だぁ(推定)。物を壊したら魔法訓練がばれるので空中に放っては霧散させているだけだから威力の程はまだ分からないが人間ならあっさり殺せてしまいそうな火力は間違いなく出ている。真っ黒けの円錐状の物体が影からニョキっと勢いよく飛び出る様はその威力を推し量るに十分…ごめん自分のオノマトペの語彙力の低さのせいで全然威力が無いような気がしてきたわ…
しかし全然魔力が減った感覚がしない。魔力切れ寸前までピンピンしていて魔力切れになった瞬間自覚するパターンなのか、私の保有する魔力があまりにも膨大で魔力が減った感じがしないだけか、まぁとりあえずガス欠までひたすら撃ってみれば分かることだ。爺さんが魔力切れになったら気絶するとか言ってたからベッドの上でいつパタリと倒れてもいい状態で魔法を唱え続ける。
「穿つは人の歴史、若さ故の過ち、頬が燃える程の羞恥が刺し貫く。ダークニードル!」
心なしかさっきよりも鋭く円錐が飛び出て来る。黒歴史魔法は強い様だ。というか呪文の強さは相手ではなく使用者の心依存なのでこれでは自分に黒歴史があると自白しているようなものではないか。これは酷い。ちょっと気合を入れてコスプレをして、ちょっとゴスロリ様とかいうあだ名を付けられただけではないか。なぁに黒歴史なんて後から振り返ってゲラゲラ笑えるメンタリティさえあればいくらでも量産して後々の話題の種にしたいよね(震え声)。
「焦がれる想い、禍津星のごとく全て引き寄せ、捕らえて離さない。ダークホール!」
うーんダメだな、吸引力弱っ!まともに恋したことのない人間が恋の詩を詠んでも効果がないですってか?これは魔法の威力には人生経験が物を言いそうだな。つまり幼女が高い威力の魔法を撃っているのを目撃されると面倒に巻き込まれること間違いないな?注意しとこ。そして魔法の威力を突き詰めるならひたすら黒歴史を量産し続けて黒歴史魔法を撃つのが良いのでは?敵が倒れるのが先か羞恥心で燃え尽きるのが先か、賭けになりそうですねこれは…
「後悔は足を呑み、振り切っては後ろ髪を引かれ、やがては膝をつく。ダークバインド!」
うわー黒い触手がうねうねしている。自分でやっておいてなんだがこれはダメだな。少なくとも自主訓練ではやめておこう、私のSAN値が削れる。ただ、攻撃一辺倒でなく足止め呪文も使えそうなのが分かったのはいいね。食事を運んで来るメイドにこれを使えば一回だけなら脱走出来そうかな。ただそれをやったら今後の監視が酷いことになりそうだからやるならちゃんと今後の予定を立ててからだね。
「絶望を焚べ、慟哭を捧げ、始まるは贖罪の旅。テラーヒュプノ」
…これはダメだね。先程の呪文より十倍キモくて十倍密度が高くて百倍危険そうな触手がウゾウゾしている。しかしこれはこれで良いことが分かった、自分の実体験でなくても自分が感情移入したTRPGのキャラの経験は十分心を揺さぶって魔法の威力を高めてくれるようだ。ますます幼女らしくないパワーを身に着けていることになりそうだ。しかしあれだけ危険そうな魔法を撃っておいてやはりガス欠の気配がない。この幼女ボディ魔力詰め込み過ぎかよ。
その後夕食休憩を挟んで延々魔法を連射し続けたが結局魔力が切れずに無駄に中二力が高まっただけで眠気がやってきてしまった。最初のうちは自分の魔力が多いやったーと喜んでいたのだが、この世界における魔法は山の様に大きいドラゴンとかをばったばったなぎ倒す威力がスタンダードで、部屋の中で収まるような魔法に使われる魔力なんてゴミの様なものだっただけだという可能性もあると気づいてしまった。やはり知識不足が否めない。本が欲しい、欲を言えばこの世界のルルブが欲しい、贅沢言わないから百科事典寄越せ。歴史書でもいい、今なら貴族名鑑でも許してやる。歴史書か貴族名鑑あたりなら歴史の先生にでも頼み込めば持ってきてくれるか?次の授業でおねだりしてみよう。本当は今ベストなのは伝記の類だが…貴族の家にそういうのあるか?いや世界観分からんからなんともいえんな、もしかしたらあるかもしれん。これもおねだりしてみよう。
さて、今後の方針も立った所で初めて空中ではなく対象をとって魔法を撃ってみましょうか。
「夜は優しき母、悩みは失せ、穏やかなる一時をもたらす。スリープ」
黒いカーテンの様なエフェクトが目の前に現れ…あぁこれはいい感じに眠いですとても気持ちいいスヤァ。
この主人公はTRPGで自分のキャラに恋をさせたことがない。
何故なら可愛い我が子の様なキャラを嫁がせたくなかったから。つまり親バカ。