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侯爵令嬢らしい

「お嬢様、夕餉の準備が整いました。」

 声をかけられて目が覚める。相変わらず目に入るのは黒い天蓋だ。そうか夢じゃなかったか。夢だと思いたかったなぁ。

 そして夢じゃなかったという事で真面目に思考していくとしよう。私の気の所為でなければ先程かけられた言葉は日本語である。それからお嬢様であるらしい私がここで寝ている事になんら違和感を抱いていない様子から、私の身体は私の意識の覚醒と共にワープしてきたわけではなくどちらかと言えば私が取り憑いたというか乗っ取ったというか精神移植した状況と思われる。

 身体を起こして声の主を見やるとメイドさんであった。ヴィクトリアン調がどうたらとかいう時代考証を全力で放り投げて膝どころか太ももが半分見えるミニスカだ、秋葉原に帰れ。髪はふわふわした茶髪、目も茶色で例の漫画かアニメの様な大きさ、鼻も例のくの字、そしてテーブルに夕餉とやらがセットされている。おい待てなんでこの部屋に夕餉が用意されてるんだ、今お前は私のことお嬢様って呼んだよな、お嬢様ってのはなんか阿呆みたいに長いテーブルで食事をとるものだとばかり思っていたのだが違うのか。両親はいないのか。いるけど一緒に食事をとらないのか。自分が訳あり娘な予感がしてきて嫌になるがそれより情報整理だ、おいお前もう一回しゃべれ、口の動き見せろ、謎言語が脳内で勝手に翻訳されて日本語に聞こえているとか嫌だぞ、いつ日本のことわざなり駄洒落なりを口走って翻訳不能で予想外の事態を招くか分かった物じゃないじゃないか。

「お嬢様、どうされましたか。」

 鋭い眼光(当社比)で睨んでいるとメイド…とは認めたくないメイドが口を開いた。よし、口の動きに吹き替え映画を見ている様な違和感がない。読唇術は流石に使えないがまぁ流石に今のは発した音と聞こえた音が一致していると見て間違いないだろう。これは朗報だ、日本語が使える。素晴らしい!銀髪青目アニメ顔の幼女に精神を移植しても私は日本語を使い続ける事を許された様だ。さて懸念が消えた所で、いや懸念ならいくらでも残っているが日本語で会話出来るという最低限のことが分かった所で、祝初会話と洒落込むとしよう。最初は何を聞くのがいいだろうか、いや待て私は会話するのに違和感がない年齢だろうか。外国人は日本人より年上に見えるそうだが銀髪青目の幼女はどのくらい私の主観年齢と差があるだろうか、いやあの見た目でしゃべれないなんてことはないだろう。

 よししゃべるのは問題ないな、では何を聞こうか。無邪気に両親のことを聞いてみようか、今日は忙しいと言われるか気まずそうに目を逸らされるかの二択かな、と予想して口を開こうとして両親の呼び方に困る。パパママと呼ぶのが良かろうか、ダディマミィとかが良かろうか、お父様お母様が良かろうか。目の前のメイドが日本語しゃべってるんだから最後のでいいよな、よしそれで行こう。

「お父様とお母様はどうされていますか」

 目の前のメイドは訝しげな目をしている。初会話は失敗の様だ。やはりパパママの方が良かっただろうか。しかし精神移植前の自分の口調なぞどうあがいても調べられるものではないのでしょうがない。頭でも強打して人が変わった(物理)という体で納得してもらおう。しかしこの漫画かアニメの様な目は素晴らしく表情に思考が出るな。私も気をつけよう。

「アルストロメリア侯爵夫妻は領内の視察中でございます。」

 …?おいおいおい、このメイド今私の両親をこうしゃく夫妻とのたまいよったか。公爵?侯爵?どちらにせよつまり娘である私はいいとこの令嬢だ。嫌だなー、冷や汗つたっちゃうなー。ここで大事なのはお姫様でも一般人でもなく貴族令嬢、それも高位の貴族令嬢ってことだ。この世界が漫画かアニメかゲームか知らんけれどもこのデフォルメ目を見ればそのうちのどれかだろうってことは分かる、想定すべきは良いか悪いかで言えば悪い事態だ。お姫様が物語に絡むなら魔王に誘拐されたり氷漬けにされたりなんだりした後なんやかんやあって王子様に助け出されるエンドとかまぁハッピーエンドが多い。一般人ならそもそも物語に絡みやしない。では貴族令嬢なら?戦闘系なら血統魔法が使える主要キャラとかがいいなー、悪くしてもハーレム系の囲いの一人くらいの配役ならまだましだろう。一番悪い所だとノベル系で最悪の配役に悪役令嬢なんてものがある。あー、なんか心にストーンと落ちちゃったなー、ロリのくせに妖艶な雰囲気を醸成しつつある唇、冷たい雰囲気を放つ銀髪、あー、嫌な予感するなー、そっかー悪役令嬢かなぁ。

 悪役令嬢よりも状況の悪い配役なんてそうはないだろうからとりあえずそれを想定して行動すれば悪くはなるまい。推定悪役令嬢、バッドエンドを回避すべく行動を開始したいと思います。そのためにもまずは飯だな、腹が減っては戦は出来ぬ。

 そこで用意されたという夕餉に改めて目線を移した所で、私は吹き出しそうになった。だってそうだろう、そこにあったのは紛れもなく和食であった。銀髪青目アニメ顔の幼女にメイドが運んできた夕餉の内容が、ご飯に鯛の煮付けに肉じゃがになめこのお味噌汁だ。おいふざけんな、ここはフレンチのコース料理とかじゃないのかよ、まぁイギリス料理じゃなかっただけ幸せ、いや日本人的には和食だから最も幸せでいいのか?納得行かないがまぁ名状しがたい料理やら星を見る魚パイやらが出てこなかったことに感謝すべきだろう。イタダキマース

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