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『どうして』17


 ***


 女の子特有の、「○○ちゃんがあなたの事○○だって言ってたよ。酷くない?」の完璧な公式が優海は苦手だった。


 この公式を使うなら面と向かって悪口を言う方が、数百倍マシだと思った。


 こんなチクる様な悪口って何なんだろう。


 言ってる子が悪いのは当然だけど、自分にコソコソ伝えてくる子って?


 私は言って(悪く)ないよ。ほら、聞いちゃったら嫌な感じじゃん? だから報告しとくね――そうとでも言いたいのだろうか?


 間接的な悪口は目の前の子が便乗して言ってるみたいで、気持ちが悪い。


 一体どっちの悪口を言いたいのかが見えないのもゾッとした。


「私には……そういう報告いらないよ。知らなきゃ終わる話だもん。それに、言いたい事があるなら本人同士でやりあうのが一番だと思うな……」


(だって、第三者が間に入って何になる?)


 ずっと黙っていた優海だったが、とうとう我慢出来なくなり声に出した。


 上から目線で言った覚えも無ければ、正義の旗を振りかざした訳でも無い。


 ――だがその一言で。


 優海の席(居場所)は消えてしまった。


 もうどこにもなかった。



 正論が正論として受け入れられない時は、ままある。


 けれど、それを知るのはもっと後の事。当時中学生の優海には分からなかった。


「谷口さん。一応、みんなに謝った方がいいんじゃないかな」


 担任に言われ優海の頭は混乱した。


 クラスメイト全員に?


 謝る? 一応?


 何でそんな事をしなければならないのだろう。


 自分はいつ間違った事をしたのか?



 だが、反論は“言い訳”扱いされて。優海は“帰りの会”黒板の前で、ひとり頭を下げた――。


 教卓から見たクラスメイトの表情を忘れるなんて無理だ。満足気な一部の女子と、無表情のその他大勢。


(こんなところもう絶対いやだ)


 自分を否定する人しかいない。誰も自分の事なんて見てない。


 落書きされた机に置かれた花は漫画の世界だけじゃなかった……。


 ああ、ここにいた自分は死んだんだな、と。


 じゃあ、仕方ないか、と。


 優海は震える心の中で思った。




 ――他から己を否定され、自分という個を消した時。


 ――それを“気持ちの死”というならば、私は何度死んだのだろう。



 ノートに書いた自分の字を見つめ、優海はぐっと唇を噛む。


 不登校になってから、両親は『内から見える優海』ではなく『外から見える優海』を気にするようになった。


 昼間の外出は駄目、夕方からは自由。


 昼は学校、夜は塾に通っていると言えばいいからだ。遅くまで出歩いているのを近所の人に見られても「受験生は大変ね」で終わる。


 熱心に谷口家を訪れていた担任も今は来ない。不登校のキッカケとなった“謝罪事件”が大事にならないと安心したからだと思う。


 親と担任が見つけた“妥協点”自宅学習――優海の心が置いてけぼりにされた末に出来上がった形……。


 優海は由井まちの図書館に毎日のように通った。


 由井まちは通称『学生の街』。図書館には学生相談室というものがあり、様々な悩みを聞いてくれる相談員が数名いる。


 優海と同じ境遇の子はたくさんいた。相談員を通じて、同い年や年上の友人が五人も出来た。


 駅から離れたファミレスで「傷の舐め合いなんていう奴はクソくらえだ」と言いながら、みんなと勉強したりして。


 学校は、生徒六人のファミレス校。全員が戦友で、盟友。


 ――そして。


 優海はその中でリーダー的な存在だった高校三年生、友成ともなりに恋をした。はじめて彼氏と呼べる人が出来た。


 

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