『どうして』15
私が知ってる悪魔との契約(漫画や小説だけの知識だが)は、魂と願いの等価交換。でも零さんと優海さんの契約は天秤が釣り合っていない。
優海さんの方にしか重りが乗ってないのだ。等価もへったくれもない。
“どうして”?
優海さんはただただ、悪魔の甘言にのせられてしまったの? 零さんに言葉巧みに誘導された?
――きっかけはそうだったのかもしれない。
でも最後は、自分で選んだ。
零さんも結城さんも、彼女の選択だと言った。
(なんでそこまで……。優音君の事だって何が本当なのか嘘なのかも分からないし)
優海さんの気持ちが全く分からない。
「マスター~。どうします?」
――と、ナユタ君が結城さんを呼んだ。
「この子、喋れなくなりましたぁ」
「!?」
「もうそんな時間ですか」
「じか……? え!?」
腕時計を見る結城さんは、顔色一つ変えずに言う。零さんは憮然とした顔に。
優海さんは、喉を押さえ呆然としていた。
「結城さん、優海さんが喋れなくなる事知ってたんですか」
「えぇ。そうですね」
「私、彼女と話をする為に来たんです……。聞きたい事も沢山あるのに、これじゃあ……」
今までの時間は何だったんだ。振り回された挙句、何も出来ずに終わるなんて。
「彼女と話がしたいんです」
「谷口優海の事情を知りたいならば、差し支えない程度でお話しましょう」
「違うんです!……私は優海さんの気持ちが知りたい。こういうのってお互い一方的に伝えるだけじゃ駄目なんだと思う。優音君はお母さんを待ってるんでしょう? このまま二人が会えないのはおかしいですよ」
「優海ちゃんは会いたくないって言ってんのに?」
「零さんも、説得して欲しいって言ったじゃないですか……」
「あんなのただのメールじゃん。呼び出す口実にもってこいだったし」
言い放たれて、私は唇を噛んだ。
かもしれない。――かもしれないけど。
「本当にそうなんですか」
優海さんが目を逸らし、零さんの瞳がスッと冷える。結城さんは私達を見て溜息を吐いた。
「困りましたねぇ。私も立場上、人間の花音さんへ死者の全てを教える訳にもいきません」
死神の仕事。私が踏み込んではいけない領域。
もしかして……優海さんの声を封じたのは、結城さんなのだろうか。
目を閉じ口元に手をあてる彼は、困ったと言いながらもどこか楽しそうに見えて。でも口元を隠しているから、微笑みを浮かべているのかは分からない。
――結城さんが目を開いた。
「ですが、貴女は私のパートナーになる特別な人間ですしね。それに“透明者”の実力がいかほどのものか知っておくのも悪くない」
誘う様に差し伸べられる手。
「取るも取らぬも貴女次第なのでしょう? でしたら、私の魂を都合よくつまみ食いしてみたらどうです? 死神の“人間の過去を視る力”が味見出来るかもしれませんよ」
「え……」
「ああ、でもいきなり胸に手を突っ込まれるのはちょっと……。どうぞお手柔らかに」
薄い茶色の瞳が妖艶に光った。