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『どうして』12


(……零さんが……この事故を……)


 彼の正体を知ったから余計にそう思うのかもしれない。けれど、結城さんを通して事実を垣間見た、そんな感覚の方が強い。


 妙に説得力のある映像だった。


 零さんの狙いは“透明者”の私だ。貯金箱扱い出来る都合のいい存在。一度で複数の魂を手に入れる方法――。


 あのバスに私が乗っていたら……。


 優海さんはあのバスに乗っていたから……。


 何度も心の中で繰り返す。どちらにしても、結果は最低だ。


「谷口優海というカードを手に入れ、すぐにでも次の勝負といきたかったでしょうねぇ。だが、花音さんがこちらの世界を知らないという状態では、話をうまく運べないのは明らか。地団駄の日々だったのでは?」

「……」

「それは……?」

「零には、花音さんに私達の世界を受け入れさせるだけの“力”と“材料”がありません。

 貴女だって、出会ったばかりの見るからに軽薄そうな男に、突然、異世界のあれこれや自分が普通の人間じゃない事を説明されても信じないでしょう?」

「……。……はい」

「順序やタイミングは重要です。点と点が線で繋がっていく工程も、ね。

 零は、私が花音さんに正体を明かし花音さんが私達の世界を受け入れるまで、ただカードを失くさないよう必死に人間界にかじりつくしかなかった。フフッ……大変でしたねぇ、零」


 クスクスと笑う結城さんを見上げて思う。


(この人……マジで怖い)


 零さんがやきもきしながら私の周りをウロウロしてたの、楽しんでたんだ……。


(え?……てことは)


 前に、田所さんに悩みを打ち明けた時があった。結城さんの事が聞きたいのに話して貰えなくて……と。あの時は私けっこう落ち込んで――。


(もしや、ついでに私も振り回して喜んでたのか!?)


「お前もペラペラとよく喋ってんじゃねぇか。さっき俺が言ったコト、誤魔化してーの?」


 零さんが優海さんに視線を向ける。結城さんも彼女を横目で。


 二人に見つめられた優海さんはズルズルと座ったまま後ずさった。黒いスカートが灰色に、裾のレースは砂利でほつれてしまっている。


 と、いつの間に近付いたのか、ナユタ君が「あ~、これはちょっと酷いですねぇ」とレースをつまんだ。セツナちゃんもそばへ寄りのぞき込む。異質な双子に挟まれ、優海さんの顔色はますます悪くなった。


「誤魔化す必要がどこに?」


 結城さんがパチンと指を鳴らせば、双子はすぐに優海さんから離れる。


『主に従うのみ』


 ナユタ君の目は、もう少年の目ではなかった――。


「花音さんは、自分が見境なく他人の魂を取る事を恐れているのですよ? 条件となるネガティブな感情とは何か、どこからが危険でどこまでがセーフか、知るには良い機会じゃあないですか。ねぇ、花音さん?」


 目を細める結城さん。確かに彼の言うとおり、私はそれを知りたいと思っていた。


 でも――


「優海さんの事を考えてないやり方です……。これじゃあまるで実験体――」

「だから前から言ってんじゃん。コイツろくな男じゃないって」


 零さんの溜息が耳に障る。


 完全なるブーメラン発言である事、彼は気付いてなさそうだ。そもそも零さんが優海さんに近寄らなければ良かったんですけど!?


「パートナーの不安を払拭する……その為に動く。何が悪いのでしょう?」

「……」


(それ自体は悪くない。でも……そうじゃないんだよな……。これ、言って伝わるものなのかな……)


 人間の機微に疎いと結城さんは自ら認めている。その彼に繊細なニュアンスが伝わるのかどうか……。


 

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