『どうして』11
「花音ちゃんが“自分の意志で出来るのか”が賭けだったけどね。――こっちから煽って、荒ぶった花音ちゃんに取り込まれたら成功。商談成立」
「成功って……」
「だってさぁ、『無自覚なんですごめんなさい』とかイイ子ぶってるトウメイサンって、本当にそうなの? ド天然なの? 俺はさ、能力ある時点でみんな自由に扱えるんじゃねーかと思うんだよな。やり方分かってないだけでさ」
零さんは手を握ったり開いたりしつつ、ウンウン頷いてから笑う。
「いやあ、むき出しの嫌悪感は武器と同じだねぇ。さっきので、コツやら何やら掴んで今後に活かせるだろ?
取るも取らぬもアンタ次第。
結城が黙って見てたのも、それを知りたかったからなんじゃね?」
「……」
「ほう……。よく喋りますね。余裕が無くなってきましたか」
結城さんが饒舌な零さんを止めた。
途端に零さんの表情が歪む。この二人は、どうしても喧嘩越しでしか話せないらしい……。
「ああ……。初めから余裕なんてありませんでしたね。あったのは、力も知恵も無い癖に大仕掛けを企む愚かさだけでした」
結城さんの腕がするりと腰に回ってくる。
私を抱き囲むと、結城さんは微かに笑った。
「お前の考えと行動はいつも賭けと運頼みだ。昔から何も学んでいない。それでよく“あの娘”を守るなど言えるものですね」
「ッ!」
奥歯を噛み締めて拳を震わせる零さんに、セツナちゃんが前傾姿勢をとった。
低く唸り声をあげる彼女を手で軽く制止する結城さんは、冷えきった微笑みを浮かべたまま続ける。
「バス事故で空振りした零が次にどう動くか……パターンはいくつか浮かびます。谷口優海と谷口優音の件は全くの想定外でしたが、お前が花音さんと谷口優音に接触した事、そして谷口優海の状態。それが見えた時この結果は読めましたよ」
ゆっくりと私の髪を指で梳く結城さん。
冷たい空気を皮膚に感じると、頭の中に突然映像が流れ始めた。――音の無いVTRだ。
騒然としているバス事故の現場。数人がガードレールを越えバスに駆け寄っていく。
野次馬があっという間に集まり、スマホで動画を撮る人があちこちに現れた。背伸びをして何とか現場を見ようとしている人もいる。
救助の為に動く人より見ているだけの人が圧倒的に多いのは、街中での事故だから。私だってあの場にいたら大勢の内の一人になるだろう。救助に加わる勇気が無いのだ。
やがて、救急車や消防車のサイレンが聞こえてきた。
どんどん集まる人間。
――その中に、零さんがいた。
眉根を寄せて舌打ちした彼は、すぐに現場から立ち去って行く。
好奇心むき出しの人間達に嫌気が差した……。零さんならそうも言いそうだが、今の目は違う感情から変色したのだと感づいた。