『どうして』8
ここに来るまでの自分の行動は……指摘された通りだ。
人から聞いた噂。
第三者の憶測が真相に近いと思わせる記事。
批判に乗っかってしまった人達の呟き。
私はそれらをまぜこぜにして、谷口優海なる人物を勝手に作り上げていたのかもしれない――。
「やっぱり……みんな、私を見てくれないんだ。――もうずっとそう」
優海さんの呟きは、お経の様に低く。
私の指先に最後まで残っていた炎と同じオレンジ色が、優海さんの瞳を染めていく。
涙が一粒、砂に落ちた。
「どうしろっていうのよ……どうすれば……いいのよぉっ!」
突然の耳をつんざくような悲鳴が空気を割り、その勢いで突風が起こる。
「うわっ!」
巻き上がった砂埃に目を閉じた中で、「はぁっ!?」零さんの驚く声が聞こえた。彼にとってもこれは想定外の事態らしい……。
つむじ風は小さいが、私達を飲み込もうとする力は相当で、靴の中で指を丸め抗うくらいでは全く歯が立たない。
このままじゃ……
(巻き込まれる。そうしたらどうなるんだろう?)
数メートルは上に飛ばされるか――打撲だけで済むかな……?
覚悟した、その時だった。
『花音さ~ん』
「!」
ちょっと間延びした声。ナユタ君の声だ。
『大丈夫ですかぁ』
大丈夫じゃないです!
言うより前に、ブレスレットの鎖がパチン! と切れ、同時につむじ風が爆ぜて。
今度は弾き飛ばされた。もう何が何だかサッパリ分からないけど、これ、打撲よりむち打ちを心配した方がいいな。
「いってぇ! お前ら、なんっつー登場の仕方だよ! 力技かよ!」
「文句はあの子に言ってくださいよ~……。こうでもしなきゃ、間に合わなかったんです」
砂埃が落ち着き目を開くと、零さんが転がっていた。
「ちからわざ……間に合わなかった……」
あの強風を起こしたのは優海さんで、双子はその風を相殺した、私を守る為に。――ブレスレットが切れたのって、つまりそういう事か……?
私はまた見えないクッションに助けられていた。背中にふわふわした感触――高級なムートンのソファーに座っているみたい。
(ん? 見えない?)
――見えてる。ちゃんと触れるし。
クッションでもソファーでもない、それは、大きな獣だった。
二~三メートル級の……狼?
ううん。似てるけど、違う。人間界には存在しない動物だ。
体の大きさとほぼ同じの尻尾を持つ狼っぽい獣なんて、ファンタジー界のモフモフそのものじゃないか!
(あれ? この子……)
チョコレート色の艷やかな毛並み。アンバーとアメジストのオッドアイ。
もしかして……
「セツナちゃんなの?」
「……」
ゴロゴロと喉を鳴らすコに思わず「おお」と感動してしまう。
あんなに可愛いセツナちゃんが、こんなにカッコイイ狼(?)に……。
見る人によって姿が変わると結城さんは言っていた。
でも、結城さんが小さなブラックホールみたいだと言うくらいだから、私にもそういう“ちょっと怖い系”に見えるんだろうと思っていたんだけど。
モフモフ……そうきたか。――とてもいい。