表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/147

『どうして』7


 足がフニャフニャになり立っていられず、へたり込む。零さんがクスリと笑った。


「良かった? ……どこがよ」


 苦しげな表情で私を睨む優海さんに歩み寄った零さんは、ウンウンと腕を組み頷く。


 手を貸してあげる気は無いらしい。そのくせ傍らにピッタリと寄り添っている。


 零さんは、こうして彼女との上下関係を私に見せつけているのだ。


「だよなぁ。俺は面白いから全然構わないけど。花音ちゃんの激しい一面も見れたし、読みが当たってたのも分かったし~」

「読み?」

「ま、優海ちゃんにとっちゃあ、面白くないか。せっかくのチャンスが無駄に終わったあげく、嫌~な気分にさせられてさ」

「九条さん……。それ、もしかして、もう駄目ってこと?」

「はい、時間オーバー」

「そんな……!」

「彼女の自称カレシ、面倒な男なんだよ」


 零さんは顎で私を指した。猫っ毛をかき上げながら、眉間に皺を寄せる。


「ネチネチしててさぁ……どこが良いの? アイツ。今だって、花音ちゃんのコトどっかから覗き見してるぜ、きっと。ストーカーかよ」

「結城さんがなんでそんなこと」

「俺と同じく、アンタの影の部分が見てぇんじゃね? ったくよ~、自分は動かねーで人ばっか使うの、どう思うよ? これだからエリート様は」


 零さんの話を聞きながら公園の周りを見渡した。


 ――何かが居てもおかしくない雰囲気だけど、人影はなかった。


「影の部分……それ欠点って事ですよね……」

「良い意味じゃないくらい分かるでしょ」

「欠点のない人間はいないよ。“選ばれし者”だって所詮は人の子だしさ」


 二人の冷ややかな視線と声が、怖かった。


 一歩前に出て私を見下ろす零さんは、「ね、花音ちゃん?」と目を細めた。フレームの向こう側の三日月形が、不思議の国に住む嘲笑う猫と重なる。


「あんたは最近、ちょっとイイ気になってたと思うんだけど。どう?」


 どう? と聞かれても……。


「認めるのは癪だけど、結城は“美人で有能だ”っつーのは死神と悪魔の間じゃ有名な話だ。カミサマのお気に入りだって噂も立ってるもんだから、逆らえない奴はごまんといる。

 人間から見ても似たようなもんなんだろ? 隠しきれない存在感てやつ?」

「……」

「そのイケメン様に口説かれながら『貴女は特別です』とか囁かれちゃえば、舞い上がるのも無理ねぇわ。んで、『そっか、私って他のヒトと違うのね!』てな感じになる」

「……」

「いや、確かにトウメイさんは特別だぜ? だけど、心の中まで透明、澄みきった人な訳ねーじゃん」


 反論は無かった。――出来ない、と言った方が正しい。


 零さんは、それを分かってる上で喋っている。


 一時でも考えた、人には見せたくない心の中を、この人は見つけてズバズバ言ってくる。


 結城さんもだけど、零さんも、その辺容赦なかった。


「花音ちゃんは普段おっとりしてるし、他の人間に比べりゃ純粋でマジメだねぇ……。その分怒るとヤバいタイプ? さっきの自分思い出してみ?」


 拳を振り上げる彼を見ると、胸がひゅっと冷える。


 感情のままに動いた私の行動を、零さんは笑いながら再現した。そして、続ける。


「彼女にイライラしただろ。『何言ってんだ、この子――自分勝手な女ね……。聞いてた通りじゃないの!』」


 舞台で演技する時は、表情やアクションを大きくし意識する――テレビドラマと違い顔や行動のズームアップがないからだ。広い劇場では、オーバーな振りでも観客からは自然に見えたりする。演劇部でやってきた事。


 零さんに舞台経験があるかは知らない。だけど、女性になりきった彼の声のトーン、表情、動きは、まさにそれで。


 誇張された分、嫌味が増す。不自然さが、私を責める。


「あんたも……」

「だって、週刊誌の前情報しか入ってないもんねぇ。ツイッターの悪口だけ見てたんだもんねぇ」

「あ……」

「受け身ばっかで流されてる方が楽チンだし。さほど興味も無い話なら、深く知ろうとも思わねぇよな」


 ――頭を殴られるより衝撃的で辛かった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ