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◆◇◆ルルルとの別れ◆◇◆

 夜中に僕はライシャと一緒にテントを抜け出してルルルが監禁されている檻に向かった。

 堅牢な檻を作ったからなのだろうか、警備は手薄。

 と、言うより、そもそも警備する物も居なかった。

 確かにこの丸太で作られた檻なら、逃げ出す事は不可能。

 だけど、これを作る時に使った門型と、そこに吊るされていた4つの滑車が置き去りにされている。

「何をするつもり!」

 僕たちに気付いたルルルが、冷たい声を掛ける。

「しっ、これから君を逃がす」

「逃がすって、この土に埋められた丸太は、アンタ達2人では何ともならないわよ」

「用意をするから、待っていて」

 僕は滑車を持って檻の上に上がり、滑車を2つ固定して門型に片方を固定したロープを通し、後の2つをその通したロープに引っ掛けた。

 これで固定滑車が2つと、動滑車が2つのセットの出来上がり。

 ここから動滑車2つの軸を鉄の板で繋げて、その板にロープを通して檻の1本の丸太に結んだ。

「これで、どうするつもり?」

「これから、この丸太を引き抜く」

「丸太を引き抜くと言っても、1本100㎏ほどもあるのよ。それに丸太の上には板張りの屋根もあるから、いくらカイが頭が良いからと言っても引き抜くのは無理よ。それより私に構わないで見つかる前に早くテントに戻りなさい!」

「良いから見てなって。ライシャ、力を貸してくれ」

「OK!」

 固定滑車2個と動滑車を2個をこの様に繋いだ場合、持ち上げるのに必要な力は4分の1に軽減できる。

 だから僕一人の体重でも100㎏の丸太は引き抜く事が出来るはずだが、問題は土に差し込んでいる部分の抵抗がどのくらいあるかだ。

「僕がロープを引っ張るから、ルルルとライシャの2人で協力して交互にその丸太を押し合って!さあ行くよ‼せーの!」

 丸太がどのくらい土に埋め込まれているのか知らないけれど、さすがに軽い力では丸太は持ち上がらなかった。

 そして、僕は1つの間違いに気付いた。

「ライシャ変わって!」

「いいけど、どうして?」

「上から吊るされたロープを引くのには、自分の体重以上の力は掛けられない。僕より君の方が体は大きいから掛けられる体重も大きいだろう?」

「計ったことはないけれど80㎏は軽く超えていると思うよ。もっとも馬の時は400㎏は優に超えているけれど」

「じゃあ頼んだよ。ぶら下がるだけで充分だから」

 ライシャがロープにぶら下がると、明らかに僕の時よりも大きく丸太が揺れた。

 あとは土の抵抗を緩くするために僕とルルルで丸太を揺さぶるだけ。

 ギギギギギ。

 丸太が動き始めると、その上に乗せられている天井板も持ち上がる。

「ライシャ、そこでストップ!」

 丸太の先が地面から離れたところで丸太を横に圧すと、丁度人一人通れるくらいの隙間が出来上がった。

「さあ、ルルル早く出て!」

「……」

 ところがルルルは動こうとしない。

「大丈夫、僕がこうして抑えているから挟まれはしない。さあ早く!」

「カイたちは、どうするの?勿論私と一緒にミカールの所に逃げてくれるんでしょう?」

「いいや僕はミカールの所には行かない。ここに残る」

「だったら私も逃げない」

「何故!?」

「だって私を逃がしたことなんて隠しようがないでしょう。そうしたら今度はアナタ達がこの牢屋に入れられることになるわ。だから私は……」

「馬鹿!君と僕たちとでは罪の重さが違う。いくらミカールの手下だと言っても、君は僕たちを騙したスパイで、そのうえユーラシウスを殺害した犯人だ。死刑は待逃れない!」

「でも、その殺人犯を逃がしたカイたちは、どうなるの?」

「僕たちは犯人を逃がしただけだから最悪リンチには会うかも知れないけれど、命まで奪われることはないだろう。まあイイところで10年くらいの強制労働って所かな」

「だったら私は死を選ぶわ。カイにそんなことさせられない」

「もうっ!ルルルはわからず屋だな。いいか君が死ぬことと僕たちの強制労働を天秤に掛けてどっちが重いと思う?それは君の命だ。たとえリンチに遭おうとも10年間の強制労働に遭おうとも、僕たちの心の中では君の命を救ったことが必ず支えとなってくれる。そして生きていればこそ、またいつの日か屹度会える。ここで君をみすみす死なす事は僕たちの一生の後悔になるばかりか、もう2度と僕たちは会えなくなる。君は僕たちと会えなくなっても平気なの?」

「それは……」

「だったら出て!」

 ルルルは渋々、牢屋を出た。

「私はこれから、どうすればいい?」

「ミカールの所に行けばいい」

「そ、そんな!そうしたら折角助けてくれたカイたちを裏切る事になるわ。私はもうミカールの所には戻らない!」

「いいか、ルルル良く聞いて。君がここでしたことをミカールにチャンと伝えるのが君の役目だ」

「私がした事ってユーラシウスを殺したこと?」

「そう。それさえ知ればミカールは、いつかユーラシウスに殺されると言う呪縛から解放される。そうすればワザワザ侵略もしてこないだろう」

「そうなれば戦争が回避される!」

「そう。だから頼む!」

「わかった!じゃあ私ミカールに伝える。でもその後はミカールのもとを離れて……そう、あの小屋で皆の帰りを待っているわ。だからカイたちも一緒に逃げましょう」

「いや、僕は逃げない」

「どうして?」

「分からない。でも、僕の居た世界では犯した罪は必ず償わなければならなかった気がする」

「気がするって。ただそれだけで罰を受けるつもり?」

「罰は此処で逃れたとしても必ず自分自身の中で僕を追って来るだろう。そうすれば僕は僕から逃れるために僕では居られなくなる」

「だったら私も……」

「押し問答は止めよう。君への罰は重過ぎる。さあ早く逃げて、誰かが遣って来る前に!」

「分かった。じゃあ小屋で待っているから。約束よ!」

「ああ分かった」

「さようなら」

「またな」

 こうしてルルルはミカールのもとに去って行った。

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