◆◇◆荼毘の火②◆◇◆
切った木を皆で麓まで担いで降りた。
燃え盛る荼毘の前まで運ぶと、アーリアたちが飾りを付けに来た。
「アーリア大丈夫か?」
たった1日会っていないだけなのに、さっき山で見た景色以上に懐かしくて声を掛けたがアーリアを目は合わせてくれるけれど何も答えてくれない。
一体どうしたのだろうと、何度か「どうしたの?」と聞くと、ホークさんがやって来て
「ここの習わしでは、葬儀中に家族は何人とも話をしてはいけないことになっているのです」
赤ん坊の時に両親を亡くし、ユーラシウスに育ててもらったアーリアにとって、ユーラシウスは父親同然。
喪に服しているのを邪魔してはいけない。
木に飾りを付けるアーリアを遠くで見ていた。
父親同然のユーラシウスを殺害したルルルを僕が逃がしたことを知ったらアーリアは、僕の事をどう思うのだろう……。
許してほしいとはとても言えない。
嫌われるのは辛い。
けでども、やはり僕にはそうする事しかできない。
いくら僕を、いや僕たちを欺いていたとしても、ルルルは確かに仲間だった。
僕は今でも、そう信じている。
おそらくこの木が最後の炎となる。
そして最後の火が消えた時、ルルルの命の火が消える。
ようやく仕事も片付いた頃には、もうスッカリ辺りは暗くなっていた。
「今日はありがとうございます。疲れたでしょうから栄養を摂って、ゆっくり休んで下さい」
そう言ってホークさんたちが食事を持って来てくれた。
二つのトレーに乗せられているのは、冠婚葬祭の時に出される仕出し料理に似た豪華なもの。
アユの塩焼きや山菜のお浸し、ハマグリのお吸い物にゴマ豆腐、ご飯は麦飯だけどとろろ芋が付いていてデザートにはリンゴと栗きんとんの二つが付いていた。
それに、たっぷりのお茶が土器で作られたポットから湯気を上げていて、ホークさんがポットのお湯を僕たちの湯飲みに注いでくれた。
「さあ、お飲みなさい」
湯飲みから立ち上がる香りは、まるでそれだけで疲れが取れるような不思議な香りがした。
「カイ、この栗きんとん美味しいよ。食べてみて」
「んっ……」
「よく食後のデザートって言うけれど、リンゴみたいに酸味があって水分の多い物は胃の活動を活発にしてくれるから先に食べたほうが良いよ」
「んっ……」
折角ホークさんに勧められたお茶を飲もうとしている僕の口に、ライシャは次々に食べ物を放り込む。
「ホラ、このハマグリのお吸い物も美味しい」
「ちょっと待ってくれ、僕は……んっ……ゲホゲホゲホ」
無理やりハマグリのお吸い物を飲ませられて、ムセてしまった。
「おいおいカイ、大丈夫か?そんなに慌てて食べるから」
僕は何も慌てて食べていた訳じゃなく、君に慌てて食べさせられたのだ。
と、反論してやろうかと思ったが止めた。
ライシャは日ごろから、こういうことはしない。
マイペースにムシャムシャと、のんびり食べるのが彼の食事スタイル。
急にこんなことをしたのは、訳があるはず。
「じゃあ、私はこれで失礼します。食器などは明日の朝取りに参りますので、ゆっくり食事を楽しんで下さい」
ホークさんは、そう言い残して戻って行った。
「ライシャ、何かあったのか?」
ホークさんの姿が見えなくなったのを確認して聞いた。
「そのお茶を飲まないように伝えたかったのだけど、ほらホークさんが君に勧めていただろう。だから邪魔をした」
「なんで?」
「それ、ただのお茶じゃないよ。入っているのはユリ科のアキノワスレ草と言う植物」
「アキノワスレ草?」
「そう。睡眠薬って程ではないけれど、疲れた頭や体をリラックスさせて自然に眠りに導く効果がある」
「良く匂いだけで分かったな」
「だって俺は元ウマなんだぜ。いつ肉食の奴らに狙われるかも知れない中で、こんなの食べて良い訳ないだろう。草食動物は自然に食べて良い草と、食べてはいけない草を見分ける能力が無いと生きてはいけないんだ」
「なるほど……」




