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◆◇◆荼毘の火①◆◇◆

「フフフ」

 ボーっと火を見ていると、檻の中のルルルが笑った。

「どうしたの?」

「だって、そうじゃない。あれだけ火を燃やすと“のろし”になるからってビクビクしていたのに、これじゃあ全部ブチ壊しじゃない?」

 確かにそうだ。

 でもそれはミカールの追手が、来ていないことを知っているから。

「本当のことを言うと、昨日の夜に焚火をしようとしたのは“のろし”を上げて仲間に位置を知らせるためだったのよ。手に持っていた魚は、バレた時のカモフラージ。でも、お魚、美味しかったなぁ」

「そっか」

「色々有り難う、カイ。仲間が助けに来たら一番にアンタも助けてあげるから、抵抗しないでね」

「ああ」

「そしてミカール様の国に連れて行ってあげる」

 楽しそうに言うルルルの気持ちを考えると心が痛む。

「おいっ!」

 近くで見張りの声がした。

「いくら相手が檻の中だからって、油断して寝てやがる」

「仕方ないだろ。急に檻や荼毘をするための木を切って来たんだから」

「あーそうか、お疲れ様。交代の時間だ、これから先は家に帰ってユックリ寝るんだな」

「ありがてえ、じゃあ後は頼んだぜ」

 見張りが交代する会話が微かに聞こえて来た。

「長居すると怪しまれるから、早くテントに戻って」

 ルルルが僕の事を心配してくれて、帰るように促す。

 僕は素直に従う事にした。

「じゃあ、また来る」

「ありがとう」

 帰るとき檻の状態を確認してみたが、たった一人を虜にするには堅牢すぎる。

 どう見ても素手でこれを壊そうとすれば、10人くらいの手が必要になるだろう。

 しかし辺りを見渡していると、木を運ぶときに使った滑車や櫓がそのまま放置されている事に気付いた。


 “これなら、僕とライシャの二人だけでも何とかなりそうだ”


 次の日の朝、目が覚めた時も荼毘の火はまだ燃えていて、その前にはアーリアたちが火を囲むように寝ていた。


 “ルルルを逃がすなら、今だ!”


 そう思った矢先、僕たちのテントの前にホークさんが仲間を連れて来た。

「おはようございますカイさんライシャさん。恐れ入りますが荼毘に使う木を取りに行くのを手伝ってもらえませんか」

「はあ……」

 一応行くことにして返事をしたが、何事も計画的に進め、客を大切に扱うホークさんの頼みにしては少し唐突な気がした。

 特に断る理由もなかったし、本来何もする事がないはずの僕たちが断ることで、逆に怪しまれては堪らない。

 人が少なればルルルを逃がすのには好都合だが、怪しまれれば折角檻から逃がしたルルルが待ち伏せを受けて直ぐに掴まってしまう事も考えられる。

 テントから外に出て驚いた。そこには10人以上の人がいたから。

 僕たちはホークさんに付いて森の中に入った。

 適当な木々は周囲に幾らでもあるが、一行はどんどん山を登って行く。

 きっと沢山の木を切るのが目的ではなく、何か特別な木が必要なのだと思った。

 つまり人数が多いのは木を切るためではなく、切った木を運ぶために必要なのだ。

 小高い山の頂上まで来ると、斧を持った男が二人で木を伐り始めので、その間僕たちはのんびりと景色を眺めていた。

「あれ?あそこ俺たちが通ったところじゃないのか?」

 ライシャが向こうに見える景色を指さして言う。

 指さす先をよく見ると、遠くに見える峠の途中に雨宿りに使った大きな岩があることに気が付く。

「ほら、あそこにも」

 次に指差したのは、近くの丘。

 ここへ来る前に泊った温泉の出る川。

「楽しかったなあ。皆で久し振りに焼き魚を食べて……」

 たった2日前の事なのにライシャが懐かしそうに言った。

「楽しかったな……」

 戻る事が出来たなら、あの日に戻りたかった。

 そうすればユーラシウスも死ぬ事も無く、ルルルの正体も知らず、僕たちは仲良く旅を続けていた。

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