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◆◇◆ルルルの正体③◆◇◆

 荼毘の火は、夜空を真っ赤に焦がすほど高く上がり、辺りはまるで夕方のように明るく照らされる。

「ルルルの様子を見に行ってくるけど、ライシャも一緒に行く?」

「いや。行きたいのはヤマヤマだけど、万が一見つかった時に何をされるか分からないから行かない」

「そうか……」

「じゃあ、ルルルになにか伝えたいことは?」

「また一緒に旅をしたい。と伝えてくれ」

「それだけ?」

「今はそれしか思い浮かばない」

「OK」

 ライシャも行きたかったに違いない。

 だけど行かなかったのは、捕まったら怖いからではないと、その時は思っていた。

 まだ自分の生き方を決められないと、そう思っていた。

 荼毘の火に照らされて、辺り中赤く照らされている不思議な世界。

 それはまるで生命の誕生と死を表しているように思えた。

 昼間に近くまで忍び込んだときには気が付かなかったけれど、僕たちのテントとルルルの捕らわれている場所は谷を見下ろす頂の向かい合わせの場所に当たる。

「誰?!」

「しっ、僕だよ」

「カイ……?」

「大丈夫か?」

「うん」

「手荒な事は?」

「されていない」

「どうして、あんなことを?」

「もう、ホークに聞いているんでしょ。その通りよ。私はミカールの手のものよ」

「そんな……でも、君は猿ではない」

 ルルルの口からハッキリとミカールの手下だと聞かされるのは多少なりともショックだった。

 それにアーリアの話では、ミカールの手下は猿たちだと聞いていたので、ひょっとしたらルルルは只単にミカールを崇拝しているだけの者なのかも知れないと思って聞いた。

「バカね。下端の兵隊や召使たちには器用な猿を使っているけれど、上の方は飼いならした狼が占めているのよ」

「狼?」

「そう。飼いならすのは難しいけれど、一旦飼いならされると奴らは従順で忠誠心が強いでしょ」

「でも君は、元々は猫だ」

「あら、人間にとって猫って何のために居るの?」

「ペット?」

「そう。私はミカールのペット」

「……」

「そうガッカリしないで。勿論人間の姿のペットだからミカールの夜の相手もするわよ。でもね、私はそれだけ女じゃないの」

 夜の相手もするなんてことを聞かされて、更にショックが大きくなった。

「それだけでは無いとは?」

「私はミカールの諜報部門の隊長も務めているの」

「つまり君は、暗殺者としてここに潜り込んできたと言うわけなのか?」

「そうよ。私はスパイとして森の中で情報収集をしていたの」

「なんのために」

「ミカール様は優秀な副官を探しておられた。私はその者が来るのを待っていた」

「それじゃあ」

「そう、私はカイ。アンタに目を付けたってわけ。だけど不覚にも嵐の高原を越える時に飛ばされてしまい、アーリアにアンタを奪われるなんて思いもしなかった。おまけに、よりによってあの娘がユーラシウスに育てられた犬だなんて……。でも、おかげでユーラシウスの隠れ家まで案内してもらって、その命を取る事が出来たわ」

 なんてことだ。

 ルルルはユーラシウス側にとって敵であるばかりか、敵の諜報員でありミカールに最も近い人物であり、更に暗殺者だったのだ。

 これでは幾ら裁判に持ち込んで、僕が出来る限り知恵を絞って弁護したところで厳罰は免れない。

 なんとか聴衆からの“哀れみ”をかおうとしても、この肩書がバレれば全てが無駄になるだろうし、それをルルルに口止めしたとしても誇り高い彼女は言うことを聞かないはず。

 どうする?

 僕は考えながらルルルの傍で荼毘の火を見ていた。

 ここから見ると荼毘の様子が良く見える。

 なにも良い考えは浮かばない。

「これから、どうするつもりだ」

「心配してくれているの?」

「ああ、仲間だからな」

「仲間……でも、心配しないで良いわよ。直ぐにここにはミカールの兵が、私を助けるために押し寄せて来るから」

 おそらく、ここへ来る間に仕掛けた杖を使った目印の事を言っているのだろうと思ったが、それをホークさんが見つけて片付けた事は言わなかった。

 何故なら、希望を奪ってしまう事になると思ったから。

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