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◆◇◆ユーラシウスの死①◆◇◆

 滝の裏側に周ると道が広く平たんになった。

 ホークさんが何か口を動かしたが、何を言ったのか滝の音がうるさ過ぎて分からない。

 そこから20mほど歩いた丁度滝の裏側に、葦の束でカモフラージュされた小さな洞穴があった。

「さあ、どうぞ」

 言葉は相変わらず滝の音に掻き消されて聞こえなかったが、たしかにそう言われた。

 洞穴の中は真っ暗で暫く何も見えなかったが、意外に広そうな気がした。

 暗闇でも目が利くアーリアに引かれて奥に進むと、小さな蝋燭の光に出迎えられた。

「ユーラシウスさまを訪ねて旅人が参りましたのでお連れしました」

 パキリと小枝が数本折られる音がしたと思うと、部屋が明るくなった。

 おそらく誰かが焚火に木をくべたのだ。

 いつの間にか正面にガッチリとした大きな男が座っている姿が見えた。

 白髪交じりの金髪はボサボサに伸びてはいるが、堀の深い顔に鷲のように高く尖った鉤鼻の下には白い髭で覆われている。

 首は太く肩も胸も筋肉質。

 ユーラシウス。

 その名前の雰囲気通り、雄大な男。

 急に洞窟内がざわついたが、それは一瞬の事だった。

「ユーラシウス覚悟!」

 聞きなれた声だが、いつもとは全く違った感じで、誰の声だか分からなかった。

 気が付くとユーラシウスの左胸に、鋭利な鉄で作られた短剣が刺さっていた。

「キャー!ユーラシウス様!」

 倒れそうになるユーラシウスを支えるように跳びつくアーリア。

「離せ!」

 捕らえられる声を聞いて、初めてさっきの声の主がルルルだと言う事に気が付いた。

「外に連れ出せ!」

 ホークさんが男たちに命令する。

「ちょ、ちょっと待ってください。いったい何があったんです」

「この女が隠し持っていた短剣をユーラシウス様に投げた!」

 ルルルを羽交い絞めにしている男が言った。

「何かの間違いだ。ルルルが、そんなことをするはずがない!」

 止めようとするとする僕に、ルルルが思いもかけない言葉を投げた。

「相変わらず、甘いわね!」

「えっ」

 僕が呆然としている間に、ルルルは男たちに連れて行かれた。

 捕らえられたルルルも心配だったが、目の前で父親と慕うユーラシウスが傷つけられたアーリアも心配だったので、洞窟に戻ろうとするとホークさんに止められた。

「中に入ってはいけない」と。

 ライシャも既に洞窟内から出されていたので状況を聞いてみたが、分からないと肩を落としていた。

 僕の見た限り、ルルルの放ったナイフはユーラシウスの左胸に深く刺さっていた。

 心臓に刺さっていれば即死。

 運良く外れていたとしても、肺がダメージを受けているはずで、外科手術の出来る病院もないこの世界では回復するのは難しいだろう。

 ホークさんに、森の中に作られた仮設のテントに案内された。

「粗末な所で申し訳ありません」

「いえ、僕たちは構いませんが、ユーラシウスさんは大丈夫ですか?」

 僕の問いにホークさんは、首を横に振るだけで何も答えてはくれない。

「アーリアは?」

 この問いにも、同じ反応。

「ルルル。ルルルはどうなるのですか?!」

「三日後、荼毘だびが終わった後、処刑が行われるでしょう」

「処刑って……まさか、死刑って事じゃないよね。だって裁判もなしに、そんな事あり得ない!」

「残念ですが……」

 そう言うと、ホークさんは黙って戻って行った。

 ルルルの処刑が決まった。

 ホークさんは、確かに“荼毘が終わった後”と言った。

 荼毘とは火葬により死者を弔うこと。

 誰の荼毘かは言わなかったが、これは明らかにユーラシウスの死を意味することは間違いない。

 それにしてもルルルは、何故あんなことをしてしまったのだろう。

 人を殺してしまった罪は重い。

 しかし、反省して償うチャンスを与えないやり方は酷過ぎる。


 “とにかくルルルに会わなければ!”


 幸い僕たちは客人として扱われているみたいで、見張りは居ない。

 僕はライシャに相談して、ルルルを探しに行くことにした。

 もし僕が居ないことがバレたときは、散歩に出たと言ってもらう事にしてテントを抜け出した。

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