◆◇◆ユーラシウスの里へ③◆◇◆
その日の昼過ぎに僕たちは麓に降りた。
周り中崖に覆われていて、滝が流れ滝壺からは澄んだ水が絶え間なく流れていた。
今まで見て来た所とは全く違う雰囲気だが、人の気配はおろか家さえもない。
「もうユーラシウスは、ここには居ないのでは……」
不安になってアーリアに聞いてしまったが、そのアーリアだって1年程ここに来ていないから、俺の問いには答えられない。
「ユーラシウス、私はカイ。貴方に会いに来た!」
大きな声を上げて、呼びかけた。
「私たちは敵ではありません 」
そう言って装備を全て外し、地面に置き敵意が無い事を示してみた。
だけど返事がない。
僕たちは武器を置いたまま、しばらく辺りを歩いた。
「もう、居なくなったんじゃないの?」
心配そうに、しかし何故か少しだけ嬉しそうにルルルが僕に言う。
「どうしたの?何か少し嬉しそうに見えるけれど」
「ユーラシウスが居なければ、まだまだ旅は続くでしょ」
「そうだけど、居たら何か?」
「だって、居たら戦争になるでしょ」
確かにルルルの言う通り。
ユーラシウスが好むと好まざるに拘わらず、ミカールはユーラシウスを自分に害をなすものとして追っている。
もしも彼がもう死に、この世に居なければ猿たちを奴隷のように使う不都合な世界とは言え、戦争は起きない。
でも、居たとすれば必ずミカールはユーラシウスを殺すために襲って来る。
その時にユーラシウスと彼を慕う者たちとの間に、必ず何らかの戦争が起きる事は避けられないだろう。
「誰かいますか!?いたら返信してください! 」
僕はアーリアを振り向いて、日本語じゃあ駄目なのかと聞いてみた。
「別に問題ないよ」
と、アーリアは答える。
そう言えばアーリアもルルルもライシャも、そして俺たちを追っていたあの猿たちも日本語を話していた。
「ここの共通言語は日本語なのか?」
「違うよ」
「じゃあ、日本語を使う人たちが多いって事?」
「それも違うわ。言葉によるコミュニケーションや意思の疎通を排除するためにユーラシウスが魔法を掛けたの」
「でも僕は確かに日本語しか話していないよ」
「そうね。カイは確かに日本語を話しているの。でもそれが耳を通って脳に届く頃には共通言語として認識されるの」
「凄い……」
しかしこの様な魔法を使えるユーラシウスやミカールたちと比べて、弓を作るのが精一杯の僕は、なんてちっぽけな存在なのだろう。
僕の能力を知ったら、さぞやユーラシウスやミカールは失望するはずだろう。
いや。
すでに彼は僕の能力を知っているに違いない。
だから、僕は相手にされていないと言うわけか……。
「それは違います」
急に森の中から声がした。
「ユーラシウス!?」
いや、違う。
この声には聞き覚えがある。
「ホークさん!?」
森の中から現れたのは、あの行商のホークさんだった。
「長旅、お疲れさまでした」
“でした?”
と言う事は、彼は僕たちの目的を知っているという事なのか……。
「さあ、こちらへ」
ホークさんの後ろには他に5人の男が居て、その男たちがホークさんに付いて歩き出した僕たち4人を囲むように付いて来る。
「ホークさん。貴方は一体何者なんですか?それに僕たちの旅の目的を知っている様に見受けられるのですが、それは何故なんですか?」
「私は、ある人から貴方を見守るように言われただけ。それ以外は……」
「ある人とは?」
「それは、お会いになって確かめれば良いでしょう」
滝壺まで来ると、人が一人だけ通れそうな岩場がある事に気が付いた。
そこを、ホークさんを先頭に僕が続き、その後ろをアーリア。
アーリアの後ろに部下らしい男が二人入りライシャ、ルルルと続き、最後尾に3人付いた。
この隊列になるときに、少しだけイザコザガあった。
それは僕の傍に居たいと言うルルルが最後尾にされた時の事。
「なんで私が、最後尾なの!私はカイがこの世界に来て最初に友達になったのよ。だからカイの隣に居るべきなの!」
いつも穏やかなホークさんだったが、何故かこの時は部下の男たちに肩を掴まれて抵抗するルルルには目を向けなかった。




