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◆◇◆ユーラシウスの里へ②◆◇◆

「アンタ何しているのよ!」

「止めて!!」

 夜中にアーリアの怒鳴り声と、ルルルの甲高い声が響いて目が覚めた。。

 慌てて飛び起きて2人の方に近寄ると、何だか少しキナ臭い臭いがする。

「どうした!?」

「この子、私たちが眠っている隙に、火を起こそうとしていたのよ」

 見ればルルルの右手には火打石が握られていて左手には竹串に刺した魚があり、アーリアに怒られて仁王立ちしているその顔には、悪さが発覚しても素直に謝る事が出来ずに意固地になっている子供の様な顔があった。

 足元には微かに煙の残る枯葉。

「ライシャは?」

 振り向くと彼は、この騒動にも気づかずグッスリ寝ていた。

「アーリア、気が付いてくれてありがとう。後は僕に任せて」

「わかったわ」

 それだけ言うと、アーリアは寝床に戻った。

「ごめんね。今まで辛い思いをさせてしまって。少し時間は掛かるけれど、焼き魚を御馳走してあげる」

「でも……」

「大丈夫。でも、さっき言ったように少しだけ時間は掛かるけれど、手伝ってくれるね」

「うん」

 僕はルルルを連れて河原の端の方にある笹の生えた場所に行った。

 そこで表面にある砂を掘り進んでみると、お目当ての粘土層が見つかった。

「これ団子にして笹の葉に包んで」

「何これ、食べられるの?」

「食べられないよ」

 ルルルを振り返って笑って見せると、彼女の硬くなっていた顔も解れ少し柔らかな笑顔が差した。

 笹に包んだ沢山の粘土の団子を河原まで運び、笹を取って一カ所にまとめる。

 これから良くコネて伸ばし、横筒と縦筒の二つの筒を作る。

 横筒には形が壊れにくい様に笹の枝を輪にしたものを何個もルルルに作ってもらい、それを挟むように筒に仕上げ、横筒よりも少し太く長めに作った縦筒にも縦の骨組みと周りを囲む骨組みを合わせ、縦横二つの筒を空気が良く抜けるようにL字に連結させた。

「なにこれ?」

「ロケットストーブ」

「ロケット……?」

「まあ、見ていてごらん」

 横に向いた筒の入り口には上面に切り込みを入れて、枯れ枝や木を入れやすい様にして、そこに枯草や小枝を積み上げる。

 僕が、それに火を付けようと火打石を持つと、ルルルが慌てて僕の手を止めようとした。

「駄目よ、火を使っては今までカイがしていた事が台無しになるわ!」

「大丈夫だから見ていて」

 カチン。

 軽く1度火打石を打って出来た小さな火種だけで、あっと言う間に火がついた。

 それからは小枝をドンドン放り込む。

 しばらくすると粘土から蒸気が出て黄土色の柔らかい固まりが、赤茶色の硬い固まりに変わった。

 やがて流木を石で割った破片をくべて行くと、縦の筒からゴーっと言う威勢のいい音が聞こえて来た。

 火は勢いよく燃えるが炎は殆どでない。

「コレ一体、どうなっているの?煙も出ていないよ」

 縦筒を上から覗き込もうとしたルルルを止めた。

「凄く熱いから」

 ロケットストーブは簡単な構造だけど、煙突効果で高温になり煙までも燃やしてしまう。

 おそらく縦筒の先端から出ている空気の温度は600℃近くあるはず。

「ほら、その竹に刺した魚を煙突の上にかざしてごらん」

「こう?」

「もうチョット離して、あと軸ももう少し遠ざけて」

 直ぐに魚から水分が湧き出て来ては、零れる前に蒸発して、その度に良い匂いが漂った。

「もう大丈夫、食べてごらん」

「でも……」

「食べたかったんだろ?」

「だって、皆に迷惑を掛けて、私一人だけが良い思いするなんて……」

「いいさ。悪いのは僕の方。もっと早く、このストーブの事に気が付いていれば、みんなに不自由な思いをさせる事もなかったし――」

「なかったし?」

「このストーブは明日の朝食にも使える」

 そう言って笑って見せると、ルルルは泣き出した。

「ごめんなさい。本当に私……」

 僕は泣き出したルルルの肩に、そっと手を掛けてあげた。


 翌朝僕は美味しい魚の焼ける匂いで目が覚めた。

「おはよう。お寝坊さん」

 僕が起きたことに気の付いたルルルが、やって来て、からかうように笑って言った。

「これは……?」

「ロケットストーブで、お魚を焼いているの」

「それは分かるけれど、その魚はどうしたの?」

「朝早く起きてアーリアと一緒に獲ったの」

 ライシャは昨夜焼き魚を食べていた夢が現実になったと大喜びしていた。

 しかし、アーリアが手伝ったと言う事は、僕たちの話を聞いていたことになる。


 “あれっ?そう言えば、何を話したかあまり覚えていない……”


 少し困って火の世話をしているアーリアの顔を見ると、ウィンクを返された。


 “とりあえず、何の問題もないらしい”


 僕もライシャに続いて焼き魚をほうばる。

「美味い!しかも塩味がついている」

「骨までイケるでしょ」

「確かに。でもどうして?」

「アーリアが岩塩を見つけてくれたの。それを塗したから長く焼くことが出来たの。さあ、ジャンジャン食べてね!」

 ルルルは、そう言い残すと火の世話をしているアーリアの元に行き、交代した。

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