◆◇◆我儘なルルル③◆◇◆
何日も旅を続けているうちに、いつのまにか森のあちこちには色とりどりの花が咲き始め、季節はスッカリ春になっていた。
新緑が眩しい。
雪解けの澄み渡った小川のせせらぎの傍の窪地に、そこだけ白い煙が出ている不思議な水溜まりがあった。
「なにあれ!?気味が悪いわ。それに少し臭いし、何かが猛烈な勢いで腐っているのかしら」
ルルルが怪訝そうな顔をして僕の後ろに隠れると、ライシャも珍しく怖がって後ずさりした。
「硫黄の匂いだな」
「硫黄?」
「そう。地下のマグマとかに含まれている成分」
「マグマって?」
「平たく言うと溶岩。本当は少し違うけど」
「よっ、溶岩!?じゃあ噴火が始まるのね!!」
ルルルが驚いたのを見てアーリアがフッと鼻で笑った。
僕は怖がって慌てて逃げようとするルルルの手を掴み説明する。
「あれは煙じゃなくて湯気だよ」
「湯気?じゃあ川の水が溶岩に当たって蒸発しているのね、怖いわ」
「何も怖がることは無い。確かに水が温められている事は確かだけど、温められているのは、この川の水じゃない」
「川の水じゃないって?」
「厳密には“ない”とは言い切れないのだけれど、あれは地下水。そして地下水も直接マグマに触れた訳ではなくて、そのマグマに近い薄い地層の傍を流れていた物が隙間から上がってきているだけのこと。だから怖がることはないよ」
「……そっれて、いったい、どういう事なの??」
「つまり温泉」
「オンセン?」
「自然の、お風呂」
「お風呂って言うことは、入っても大丈夫なの?」
「温度がどのくらいかは分からないけれど、屹度大丈……夫」
いきなり服を脱いだルルルが、湯気の上がる水に向かって走り出す。
「チョット待て!適温とは限らないよ」
僕の制止する声も聞かず、そのままお湯の中に飛び込んだルルルは「キャー!」という悲鳴を上げて慌てて逆戻りして僕に抱きついた。
一瞬お湯につかっただけなのに、体はピンク色に染まって暖かい。
ギョッとした目で睨んだアーリアが直ぐに、僕に抱きついたルルルを剥ぎ取るように掴んで湯気の出ていない雪解け水の流れる川の中に放り込む。
「キャー何するの、猫殺しー!」
「ありがとう。後は頼んだよ」
僕はアーリアの肩をポンと叩き、温泉の方へ行った。
アーリアは、決して嫉妬心からルルルを川に投げ込んだのではない。
ほんの数秒使っただけで体がピンク色に染まったのだから、そうとうお湯が熱かったに違いなくて、そのまま放置していたら水膨れなどの皮膚疾患を起こす可能性も有ったので直ぐに冷たい水で冷やすために放り込んだわけだ。
もっとも、あの放り投げ方と睨んだ目つきには、少なからず嫉妬心があったのかも知れないが……。
「キャー何するのよ!出して!出してよー、この冷たい水から」
「駄目!もう少し我慢しなさい!」
背中から二人の争う声がする。
ルルルの入ったお湯に指を付けると、数秒で指先が赤く染まる。
50度は越えているけれど熱湯ではない。
このくらいなら、数秒使ったくらいでは火傷にはならないだろう。
「アーリア。もういいよ」
「えーっ。もう、いいの。つまんない」
“えっ、やっぱり虐めていたの?”
不満そうなアーリアの声に、一瞬ドキッとさせられた。
「ライシャ、少し手伝ってくれるか」
「いいけれど、なに?」
「この辺りの小石をどけて、もう少し川の水を引き込みたい」
「お安い御用で」
ライシャの馬力で直ぐに水の通り道が出来ると、お湯は丁度いい温度まで下がった。
「いいよ!」
川の方に目を向けて言っい、僕とライシャは湯加減の調節をするために、そこに木で水門を作っていた。
しばらくして二人がお湯に浸かる音がした。
「あら、今度は丁度いい湯加減よ。いったいどうしたの?」
「このお湯の中に、川の水を引き込んだ」
「さすがカイ。頭いい!でもチョットぬるいかも」
「じゃあ、こうしてっと」
引き込み用の水路に作った水門を閉じた。
「あら、暖かくなった。今度は、どうしたの?」
水路を通る川の水の量を絞ったと言いたかったが、余りにも近くで声がしたものだから驚いて振り向くと、裸のルルルが僕たちの直ぐ傍まで来て、豊かな胸の谷間を露わにしていた。
ドブーン!
あまりの色気に耐えかねたライシャが、慌てて川に飛び込んだ。




