◆◇◆我儘なルルル②◆◇◆
そうやって旅の間ルルルは何本も棒を替えていた。
最初は少し卑猥な事も考えてしまったが、結局ルルルの行動を見ていると飽きっぽい猫そのもの。
杖として使う棒の良し悪しにも何の基準もなく、気に入った棒でも直ぐに捨ててしまったり、余り綺麗とは言えない棒でも長く使っていたりと、まさに気分次第。
ただ、どの棒を持った時も、始めは喜んで無邪気に遊ぶ姿が可愛らしい。
何日も旅を続け、何カ所もの峠を越えた。
食事はいつも保存食と、道中で獲得したものを、火を使わずに生のまま食べた。
初日にアーリアが“火を使うとミカールの追手にノロシを上げて位置を教えるようなものだ”と忠告してくれたことを皆が守っていた。
ライシャとアーリアは、その事について特に何の不満もなさそうに見えるが、ルルルはいつも暖かいものが食べたいと食事の度に文句を言って皆を困らせている。
たしかに危険は伴うが、僕だって正直暖かいスープや焼いた魚を食べてみたい。
保存食の干物もそうだけど、現地で手に入れた魚は兎も角、肉を生で食べるのは僕にとってはかなりの苦痛に他ならない。
旅に出て雨らしい雨に合わなかったが、その日は午後から雨が降って来た。
峠を越えてしばらく降りた所に、洞窟とまではいかないものの岩がせり出して作られた大きな窪みがあり、そこで雨が止むのを待つことにした。
雨を凌ぐ場所がなかったので、全員びしょ濡れ。
しかも峠を越えるたばかりなので標高が高くて、濡れた体は急激に冷えて行く。
アーリアは一気に麓まで降りようと言ったが、麓まで降りるには、まだ何度か小さな峠を越えなければならない。
今日は何事もないかもしれないが、次の日以降に急に体調が崩れ旅を続けることが難しくなる事態も考えられるので、まだ昼過ぎだが今日はここで朝まで過ごすことにした。
ルルルが寒いと震えている。
薄着の服が濡れて、体に張り付き、肌が透けて見える。
もともとネコ科の動物は寒さや雨が苦手なのに、まだ冬が開けたばかりのこの時期に、薄着で頑張ってくれていたと思うと申し訳ない気持ちになった。
そう、ここでは何でも手に入ると言うわけではない。
ルルルが薄着な分けは、それしか服を持っていなかったから。
冬の間にアーリアが、はたを織って作った服は”貧乏くさい”と言って着なかった。
「火を焚こう!」
「それじゃあ、追跡者に位置がバレてしまうわ」
アーリアが止めた。
峠を越える前に毎回追跡者が居るかどうかは確認しているが、いまだにその影は見えないから追手が居たとしても結構距離は離れているはず。
その上、追手が来ているかどうかも分からない状況で、しかもこの雨。
雨で視界が悪くなっているのだ、峠ひとつ向こうに居たとしても、おそらく煙は見えやしないし、ここは峠を越えた場所だか赤い炎も向こうからは直接見えないから焚火をする事にした。
手分けして雨の当たらない場所にある枯草や小枝を集めたが、そうそう沢山はない。
そこでまず焚火をするベースに、小石を何個も敷き詰めた。
「なんで石を敷くの?」とルルルが興味深そうに覗き込む。
空気の通りを良くするためだと答えると、納得したのかしないのか「ふ~ん」と面白そうに石を置く。
石の上に濡れた太い木を漢字の“井”の字を作るように置き、そこにみんなで集めた枯草と小枝を置いて火を付けた。
「これだけだったら直ぐに消えてしまいそうね」とアーリアが心配そうに言った。
濡れていない物は少なかったが、火の付いた中に少しずつ様子を見ながら濡れた小枝を火の外側に添えて行く。
はじめは蒸気が出て目に染みたが、水分が抜けて燃えだした頃から煙は少なくなり、それを何度か繰り返すうちに“井”の字に組んだ太い木も乾いてきて火が付いた。
もうそうなると、少しずつ大きな木をつぎ込んでも大丈夫なくらい火は安定した。
「凄いね、カイ。これがアナタの魔法?」
「魔法?」
「だって濡れた木に火を付けるなんて、魔法としか考えられない」
これは魔法でも何でもない。
火の熱と空気の対流を上手に利用して早く乾燥させただけだ。と、言おうとした時、ルルルが体を摺り寄せて来たので言えなくなった。
そして、それをワザと見ないように黙っているアーリアの沈黙が僕の声を詰まらせた。




