◆◇◆旅立ち③◆◇◆
冬の間は食料を消費するだけの存在のライシャだったが、旅になると僕の二倍以上の荷物も軽々と運んでくれるし、直ぐに歩き疲れてしまうルルルでさえ肩車をしても平気な顔で歩く。
馬は人や物を運ぶのが当たり前のように思っていたが、人間になっても変わらないその馬力に、あらためて馬と言う動物のありがたみを感じてしまう。
「そろそろ、お昼にしようよ。疲れちゃった」
「ずっとライシャの背中に乗っていて、何が疲れただ。ライシャに頼ってないで、ルルルも少しは歩け!」
文句を言うルルルにアーリアが怒る。
「だぁ~って、ネコ科の動物は長時間動くのには慣れていないんだもの。馬や狼とは違うもん。ねぇカイ」
確かに、ネコ科の動物はどれも短距離ランナー。
それに比べて狼の持久力は、ずば抜けていて、馬や鹿も顔負け。
人間の僕だって狼や馬ほどではないけれど歩くだけならかなりの時間歩けるけれど、ネコ科の動物は元々外敵の来ない木の上で生活をしていたから持久力を持つ必要はなく、餌となる動物が近くに来たチャンスを逃さないように、瞬発力に特化した進化を遂げた。
こうして三人を見ていると、猫から人間に変化したルルルは自由気ままなおてんば娘、馬から変わったライシャはノンビリ屋の力持ち。
そして狼犬から人間に変わったアーリアは用心深く忍耐力があり、狼本来の特徴を備えているばかりではなく犬の記憶も併せ持っているから実は甘えん坊という性格も隠し持っていて、狼とのアンバランスなところが魅力的。
そのうえ、アーリアが人前で犬のように愛くるしい態度を見せることはなく、僕専用にみせてくれるというスペシャルプライス的なところも嬉しい。
「どうしたカイ。何ニヤニヤ笑っているんだ?」
ライシャのリュックに座っているルルルが、俺の顔を覗き込むように首を伸ばす。
「いや、何でもない」
「怪しいなぁ~」
「なにが?」
「いや、なんでも」
ルルルの、こういった疑り深く人の心を探るような行動も、また猫ならではなのか?
無理は長旅には禁物。
それが、たとえ一人の意見だとしても。
だから僕は少し早いけれど休憩を取る事にした。
干し柿を食べながら休んでいると、ルルルがタンポポの根っ子で作ったコーヒーを御馳走してくれた。
「ルルル!アンタ何してるのよ!」
ホークさんから貰った火打石を勝手に使って火を起こしたルルルにアーリアはカンカンに怒っていた。
「えっ、なに?」
ルルルは何故自分が怒られたのか分からないでポカンとしている。
「勝手に火を起こしちゃ駄目でしょ!敵にこっちの位置を教えるようなものよ!しかも濡れた草まで入れて」
アーリアがライシャと慌てて火を土で埋めた。
僕も気が緩んでいたが、たしかにアーリアが怒るのも無理はない。
火を起こすと煙が出る。
煙は“のろし”と言って大昔は戦場での通信手段にも用いられていた。
しかも水分を含んだ葉を火にくべると、燃えにくく水蒸気も発生して煙が濃くなる。
見上げると、スーッと白い筋が青い空に伸びていた。




